第6章 エゴイズムな純情戀歌《後編》* 豊臣秀吉
「美依……」
「……っ!」
「はぁっ…美依…っ……」
私の名前を呼ばれたのが解る。
何度も何度も、色っぽい吐息に混じって、名前を呼ばれて。
その度に心拍数が上がっていく。
(なに、してるの、秀吉さん……)
襖に手を当て、その向こう側に居るであろう秀吉さんに、心の中で問いかけた。
今、襖を開けてはいけない気がする。
もしかして、
今、秀吉さんは…
一つだけ『ある想像』がついて、思わずカッと顔が熱くなった。
もしそれが『正解』だとしたら。
秀吉さんは、私の事を考えながら…
それを思ったら、なんだか堪らなくて、同時に切なさと愛しさが込み上げる。
秀吉さんは…案外困った人なんだ。
私が湯浴みに行ってる時に、独りで。
そんなの、そんなのって…
────すごく、すごく
馬鹿みたいに苦しいよ、秀吉さん
「あ……」
そのうち、声も何も聞こえなくなり。
私は俯いて一回小さく息をつくと、襖をこぶしでぽすっぽすっと叩いた。
「秀吉、さん……?」
「……っ美依………?!」
声を掛けたら、すぐさま襖が開いた。
そして…私の好きな人が顔を出す。
その姿は、驚くくらいに普通だった。
『何をしてたか』なんて、微塵も感じさせない、その雰囲気に…
私はやるせなくなり、思わず。
「────…………!!」
思いっきり、
その胸に飛び込んでいた。
「どうした、美依?湯浴みは?」
「ばか、秀吉さんの…ばか!」
「……っ、どうしたんだよ、急に」
秀吉さんは、胸にすがりつく私の背中を優しく撫でる。
『はっきり意思表示するのが大事だと思うけど』と、家康は私にアドバイスをくれた。
私がはっきりしないから、秀吉さんは独りでこんな事する羽目になったんだ。
嫌がりもしない、拒みもしない。
でも受け入れる事もしない。
その私のあやふやな態度は、どれほど秀吉さんを苦しめたのだろう。
好きって言ってくれたのに。
それなのに私は返事もしないから、秀吉さんはきっと敢えて『普通』にしていてくれたんだ。
(でも、もう我慢しなくていいよ)
私は触れてほしい。
秀吉さんに、
好きな人に、触れられたい。