第6章 エゴイズムな純情戀歌《後編》* 豊臣秀吉
「……っうわぁぁぁ〜〜〜!!」
腕を怪我してるにも関わらず、私は何かを振り切るように叫んで廊下を走った。
こんな感情、本当に馬鹿みたいで。
心から湧き上がるのは、もう……
『秀吉さんに触れてほしい』と、
その一択なのだと、悟ってしまったからだ。
まるで恋煩いのようだと思った。
心がふわふわして、その人しか考えられなくて。
こんな感情は、私にも覚えがある。
まるで心が締め付けられるように、焦がれる気持ち。
多分、そう。
いや、絶対そうだ。
私───………
秀吉さんの事、好きなんだ…………!!
「……絶叫しながら走っていったな、美依」
バタバタと走り去る音と、悲鳴に近い声を聞いて、秀吉は目をぱちくりさせながら呟いた。
さっきから、美依がおかしい。
なんか落ち込んでいるように見えたかと思えば、目を釣り上げて甘味を食べたり。
そして、いきなり叫んだり…
もしかして、告白の事気にしてるのか。
秀吉はそれを思い、頭を掻きながら溜息をついた。
美依を困らせるつもりはなかった。
ただ、抑えきれない感情が溢れてしまって…
『好きだ』と言うのが止められなかった。
せめて、美依の返事を聞くまでは普通にしていよう。
そう思い、なるべく頑張って平然を装っていたが…
なんだかもう、それも結構辛い。
「辛いと言えば、身体も辛いな……」
美依を襲ってしまったあの日。
高ぶってしまった身体を、無理やり鎮めて。
それからというもの…
あの蜜事が頭から離れず、ずっと悶々した日々を送っていた。
せめて、自分で欲を処理出来れば違うのだが、美依と一緒じゃそういう訳にもいかないし。
そんな姿は、もっと見せられない。
だが、割ともう限界に近いのも確かで。
今ちょうど湯浴みに行っているなら、四半刻は帰ってこないだろう。
なら…手早く済ませてしまえば、少しは楽になるのでは?
秀吉はそう考えると、一回息をついて襖に寄りかかり、胡座を搔いた。
そして、袴の紐を緩めていく。
少しでも楽になりたい。
そんな思いから、自らの熱に手を添えた。