第6章 エゴイズムな純情戀歌《後編》* 豊臣秀吉
小さく溜息をついた瞬間、小ぶりの湯呑みが私の前に差し出されて。
その横に草団子の小皿も置かれ、そして秀吉さんは私の顔を不安そうに覗き込んできた。
「溜息なんてついて、大丈夫か?」
「え…あ、うん、大丈夫だよ」
「骨折の所が痛いなら直ぐに言うんだぞ?あ、草団子も食べさせてやる」
「だ、大丈夫!片手でも食べられるし」
(もう、秀吉さんのせいだから!)
なんだか今度は無性にむしゃくしゃして、草団子の串を掴むと、私はそのまま勢いよく頬張った。
もぐもぐと早く口を動かし、次々に口に入れて噛んでは飲み込んでいく。
味なんてよく解らない。
まあ、秀吉さんが選んだなら美味しいに決まってる。
もしかして、これは何かの作戦なのかな。
私を餌付けして…とかさ。
餌付けした後、美味しく食べちゃうとかさ。
……それはそれで、別に嫌では。
「〜〜〜………っ!って、違うぅぅぅ!!」
「どうした、美依!不味かったか?!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
私の雄叫びに、秀吉さんがびっくりしたように反応した。
私は串を握ったまま、肩で荒い息をする。
もう、答える余力すらなかった。
自分の思考回路がスパークしそうだ。
秀吉さんの事ばっかり考えて、こんなに悩んで。
結局自分の気持ちも解らない。
どうすればいいのかも解らない。
もう───………
胸がいっぱいで苦しすぎる。
「ごめん、湯浴みしてくる…」
「お、おう……」
「草団子美味しかったよ、ありがとう」
私は串を皿に置き、一気にお茶を流し込むと、ゆらりと立ち上がって、そのまま部屋を出た。
秀吉さんと一緒に居るとおかしくなる。
こんな、私が私じゃないみたいだ。
湯殿での事だって。
秀吉さんを責める所か…
嫌じゃなかったなんて、思ってるあたり。
もう、本当の意味でいやらしい女になったみたいだ。
なんで?秀吉さんだから…?
「あ……」
と、その時。
急に心にコトンと感情が落ちてきた。
秀吉さんだから、嫌じゃないの?
ただ、あの行為に流された訳じゃなく。
秀吉さんが触れたから、嫌じゃなかったの?
まるでパズルがハマったように、
解らなかった感情が鮮明になる。
もしかして、私………