第6章 エゴイズムな純情戀歌《後編》* 豊臣秀吉
「ねぇ、家康……」
「なに」
「もしも、の話なんだけどさ」
「……うん」
「今まで自分に良くしてくれていた人から、好きとか言われたら…どうする?」
私はまたしどろもどろになって、家康に尋ねてみた。
家康は一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして…
また溜息をつくと、私の顔をジト目で覗き込んできた。
「……それ、名前伏せる必要、ある?」
「え」
「バレバレなんだけど、色々と」
「も、もしもの話だから!」
「ふぅん、まぁそういう事にしてあげるけど」
全て察したかのように、家康はその翡翠の瞳を細め。
そして、私の頭を優しく撫でた。
くしゃくしゃと髪を掻き混ぜられて…
家康は相変わらずの淡々とした口調で、質問に答えてくれた。
「あんたがどうしたいかじゃないの、結局」
「……」
「好きなら恋仲になるでもいいし、無理ならそれでもいいんだし。はっきり意思表示するのが大事だと思うけど」
「そ、そっか…」
「まぁ秀吉さんなら、恋仲になったらすごく大事にしてくれるんじゃない」
(秀吉さんと、恋仲に……?)
安土一のモテ男、秀吉さん。
女の人がこぞってキャーキャー言うだけのことはあって、確かにすごく魅力的な男の人なのだと思う。
でも、ずっと兄妹みたいな関係で…
秀吉さんも私を妹扱いしていたから。
だから、戸惑う。
私は秀吉さんをどう思っているのかな。
と、そこまで考えた時。
家康の言葉を無意識的に肯定している自分に気が付き、慌てて顔の前で手を振った。
「ひ、秀吉さんの事だなんて、私言ってないよ…!」
「あんたは態度でバレバレだから」
「うっ……」
「ともかく、まだ骨はくっつかないから、御殿に居る間にゆっくり考えたら。でも……」
「?」
「その顔見れば、答えなんて一発で解るけどね。秀吉さんの事考えながら、鏡見てみたら」
家康は仕上げにもう一度ぽんぽんと頭を撫でて、手を離す。
そのまま、私は家康とは別れた。
秀吉さんの事考えながら、鏡を見ろなんて。
さっぱり意味不明で首を傾げてしまう。
……それだけ、変な顔してたかな。
でも、秀吉さんの事を考えると、やたら恥ずかしくなって顔が熱くなる自覚はあるのだけど。