第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
「だ、大丈夫だよ、秀吉さん。そんなに謝らないで」
「美依……」
「私が秀吉さんに裸で抱きついたりしたからだよね、秀吉さんだって男の人なのに…ごめん」
(……なんで、お前が謝るんだ)
お前は被害者なのに。
俺はお前に我慢出来なくて、襲いかかったのに。
自分を責める必要なんてないんだ。
俺は頭を上げると、目の前にいる美依の手をそっと握った。
そして、恥ずかしいと思いながらも、その『情けない自分』を正直に暴露する。
「その、お前の裸を見たら…つい欲情しちまって。体温とか肌の質感とか、柔らかさとか、感じたら余計に…その、堪らなくなって」
「秀吉さん……」
「割と自制心はある方だと思ってたんだけど、なんて言うか…お前がすごく可愛く見えて…だな」
「……っ」
すると、美依は顔を真っ赤にして俯いた。
言葉にすると、なんかもっと情けないな。
本当に女なら見境ないとか思われたかもしれない。
今まで培ってきた『大人としての余裕』は、どこへ消えてしまったのだろう。
美依が持ってる俺への印象とか、本当に悪くなったんだろうなぁ…
思わず落ち込みそうになっていると、美依は俺の手を握り返してきて。
なんだか恥ずかしそうに…ぽつりぽつりと話してきた。
「秀吉さんのせいじゃないよ、その、私だって逃げようと思えば逃げられたのに…しなかったのは、さ」
「……?」
「き、気持ち良くなっちゃって、そのっ…抵抗も忘れて流されてしまったと言うか……」
「美依……」
「こ、こんないやらしい女でごめん。本当に、秀吉さんだけのせいじゃないから…だから、謝らなくていいの!」
(な、んだよ、それ……っ)
あまりの可愛い言い分に、こっちが赤面してしまう。
気持ち良くなっちまったから、抵抗も忘れて流された…とか。
お前の可愛さは底抜けか、美依。
────でも、もう自分を偽れない
欲しいと思ったのも、全て。
美依を『女』にしか見れなくなったからだ。
それを隠した所で…
もう今までのようには接せない。
俺は、
もうお前を妹なんかに見れないのだから。