第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
────欲 シ イ オ マ エ ガ
「はぁっ、はぁっ……」
「……っ美依……!」
「ひ…で、よ……」
欲に駆られた目で見つめれば、美依も何だか熱っぽい目で見つめ返してくる。
もしかしたら、同じ思いでいるのかも。
そんな風に期待して、再度唇を重ねようとした。
その時。
「秀吉様、美依様、大丈夫ですか…?!」
突如、脱衣場の方から聞こえてきた女中の声。
その声で、俺は一気に我に返った。
そうだ、脱衣場には女中も居るんだった。
その事に今更ながらに気が付き、真っ青になる。
まさか、美依の可愛い声まで、向こうまで聞こえていたのではないだろうか。
だが、風呂場の戸は閉めていたし。
多分…『何があった』かまでは察していないはずだ。
「だ、大丈夫だ!だが、美依が少し具合悪くなったようだから、今連れて行く」
俺が少し大きめの声で返すと『かしこまりました!』と焦ったような声で返事が返ってくる。
そのまま俺は、手拭いを美依の躰に掛けてやり…
そして、ひょいと横抱きにして立ち上がった。
「秀吉、さ……」
「美依……」
もう、目も合わせられない。
本当に、
本当に俺は、
────しょうもない、大馬鹿だ…!!
「悪い、美依…本当に悪かった!」
二人で自室に帰り、萌葱色の寝間着に身を包んだ美依を目の前にして、俺は土下座で頭を下げた。
もう、自分が情けないしかない。
欲情に駆られ、美依に手を出した。
美依は利き腕を骨折していて、身動き出来ないのを知っていて…
世話をする所か、野獣の如く襲いかかってしまった。
(そして、自覚した。自分の気持ちを)
それに関しては否定出来ない。
でも、美依は兄としか思っていない男に、湯殿で襲われたんだぞ?
絶対、絶対に嫌われただろう。
もう…何を言われたって反論なんて出来ない。
そう思っていたのに…
美依の唇から零れた言葉は、意外すぎるほど意外なものだった。