第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
「きゃっ……!」
「美依……っ!」
間一髪。
俺は慌てて腕を伸ばし、美依の身体を受け止める。
骨折した方の腕には触れないように、しっかり腰と肩に腕を回して、横から身体を掻き抱けば…
美依は転ばずに俺の胸に受け止められ、片腕でしがみつきながら、安心したように息をついた。
だが、それが間違っていたのだと、すぐに気がつく。
すぐさま伝わってきた、美依自身の熱に…
俺は一気に身体が強ばり、保っていた『一線』が今にも切れてしまいそうな感覚を覚えた。
「あ、危なかった…ごめん、秀吉さん。足、滑っちゃって……」
「……っ」
「秀吉さん……?」
腕の中の美依が俺の名を呼ぶ。
だが、俺は───………
それに返事出来る余裕は欠片も残っていなかった。
何も身に纏わず、俺にもたれる美依。
それは温かく、柔らかく…
甘い匂いまで、ぷんと鼻についた。
その湿った体温が理性を狂わせる。
ドクッドクッドクッ…
心の臓が早鐘を打って。
手足が痺れて、腰の辺りまで熱く疼いた。
(早く、離れ、ないと……)
そうは思っても、身体が言う事を聞かない。
離れんとするように、腕には力が籠って…
頭と身体がバラバラに動き、美依の温かさをもっと感じたいと腰にある手が勝手に肌を滑った。
滑らかな感触、絹地のように。
それでいて真綿のような柔らかさがあって…
思わずつーっと指の腹で撫でると、美依が敏感にも肌を震わせ声を漏らした。
「あ……っ」
「……!」
────ああ、もう駄目だ
その艶めかしい息遣い。
それを聞いた刹那、張り詰めていた糸は、いとも簡単に切れた。
ぷつっと。
現実にそんな音がした気がした。
『過保護な兄』なんて。
きっとそれは、取り繕っていただけで。
俺はすでに美依に惹かれてる。
それを認めたくなくて、悪足掻きしてたけど。
『女』に見えると思った時点で、もう始まっていたのだ。
この愛しく思う感情。
可愛くて仕方なくて、『男』として今触れたいなんて思うのは……
────俺、美依のこと