第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
「……っ!」
だが、振り返った瞬間。
その美依の姿を直視してしまい、俺は思わず目を見開いた。
慌てていて、すっかり頭から抜けていた。
美依は湯浴み中だったのだ。
つまり…何も着ていない、裸な訳で。
湯気が立ち込める湯殿。
そこには、肌を桃色に染めた美依。
しっとりと濡れていて、身体の前を手拭いで隠してはいるものの…
身体の線ははっきり解り、その線に沿って、湯がつーっと肌を滑るのまで見えてしまって。
美依も目を零れんばかりに開いて、俺を凝視している。
────コ レ ハ マ ズ イ
「悪い、美依……っ」
俺は急いで視線を逸らし、口元を手で押さえた。
ああもう、馬鹿をやったものだ。
悲鳴に驚いたからと、美依の了承もなく湯殿に入り込んで…
その裸を見てしまった。
いくら妹とは言え、血は繋がってない上に、美依はもう大人の女である。
これじゃ、美依にひっぱたかれても不思議ではない。
「その、見るつもりじゃ…」
「わ、わ、解ってるから大丈夫…」
「そ、そっか……」
「わ、私が悲鳴上げたからだよね、秀吉さんが来たのは、び、びっくりしたけど…」
「な、何事かと思って…本当に悪い…!」
(なんだこれ、どうすりゃいい)
心の臓が大きく高鳴って胸が痛い。
それは、想像してしまった裸の美依が目の前にいるからだ。
しかも…想像通りに可愛かった、し。
……って、それ以上考えを膨らませるな!
俺は思考を無理やり断ち切った。
これ以上ここに居たら、それこそ理性が吹っ飛んでしまう。
色んな意味で、美依の身体は今の俺にとって毒だ。
俺が俺でなくなる前に、立ち去らなくては。
俺はそう思い、なるべく美依を見ないように下を向いて、視線を泳がせた。
「じ、じゃあ俺は外に出るからな」
「あ、ありがとう、秀吉さん…」
「気にするな、お前が無事で良かった」
そのまま美依の横をすり抜ける。
正確にはすり抜けようとした。
……だが、悪い事って重なるものだ。
すり抜けようとした瞬間、美依も足を動かしたのだろう。
その美依の足がずるっと滑り、身体が俺の方に傾いた。