第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
「ほら、美依。口を開けろ」
「うっ……」
「なーんだ、まだ慣れないのか?もう五日もこうして食べさせてやってるだろ?」
夕餉を美依の口元に運ぶと、美依は少し困ったように頬を染める。
それでも『ほら、あーん』と差し出せば…
美依は大人しくその口を開き、煮物を頬張った。
こうして美依に飯を食べさせるのは、毎日の日課だ。
出来るだけ三食、忙しい時は女中に頼む事もあるけれど…
俺は宣言通り、美依の身の回りの世話を事細かに焼いてやっていた。
食事や着替えなど、不自由だと思うことは全て俺の手で行う。
俺が唯一面倒を見れないのは湯浴みくらいだ。
さすがに美依の裸を見る訳にはいかないからな。
(それでも寝食はいつも一緒だし…
美依がこうして傍にいるのは嬉しい)
美依を構い倒したいという、俺のわがままも叶ってしまって心が弾む以外にない。
こんな風に、美依の世話を焼いてやりたかった。
それは『過保護な兄』としてなのだろう。
多分それ以上の感情はない…と思っているが。
だがここのところ、俺は少しだけ『厄介な感情』が付きまとってしまって…
それが最近の悩みの種にもなっていた。
「ご馳走様でした、今日もありがとう」
「礼なんて言わなくていい。食後の甘味、食うか?」
「そんなに食べたら太っちゃうから!」
「お前は少しくらい太ったって平気だぞ?」
「いや、最近確実に太ったからだめ!」
美依に一通り食べさせ終わり、お決まりに甘味を用意しようとしたら、美依は思いっきり断ってきた。
別に太るなんて気にする必要もないと思うのだが。
むしろ痩せていると心配になるし…もっと食べてもいいのに、と正直思う。
美依のために甘味を選ぶのも楽しいし。
甘いものが好きな美依だから、たくさん食べさせてやりたいんだけどな。
まぁ、駄目と言われては無理やり食べさせる訳にもいかないけれど。
そんな事を考えていれば、部屋の襖がすーっと開き。
一人の女中が顔を出して、恭しく頭を下げながら言った。