第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
だったら、俺が美依の腕になってやらねば。
俺はそう決意すると、手当ての終わった美依の肩をがしっと掴み…
その可愛い顔をしっかり見つめながら、自分の決意を美依に向かって言葉にした。
「治るまで俺が面倒見てやるからな、日常生活に支障が出ないように」
「えっ…そんなの大丈夫だよ!」
「いいや、それじゃ俺の気が済まない」
「だったら秀吉さん、しばらく御殿で美依を預かればいいんじゃないですか。美依の部屋に泊まり込む訳にはいかないでしょ」
「それがいいな、信長様に進言してくる」
家康の言葉に、俺は大きく頷いた。
確かにいつも傍に置いていれば、美依の面倒を見やすくなる利点があるし。
なんと言っても、無理をさせずに済む。
本音を言えば…
美依が傍に居るのは嬉しいと言うのもあるが。
勿論それは、可愛い妹分の面倒を近くで見られるからと言う意味だ。
それ以上の感情はない。
絶対ない…はずだ。
「美依、秀吉さんにしっかり面倒見てもらいなよ。どっちみち三月(みつき)はこのままなんだから」
「え、そんなに…?!」
「腫れが引いても無理しないこと、いい子に養生しなよ」
「は、はぁーい……」
家康に言われ、美依がしゅんとうなだれる。
そんな姿もなんか可愛いな…じゃなくて!
美依が治るまで、しっかり面倒を見なければ。
怪我をしたのは俺のせいなのだから、忙しくても美依を最優先にするぞ。
改めて決意をし、俺はその日美依を連れて御殿へと帰った。
そのまま信長様に進言すれば、信長様も御殿に美依を置くことを快く許してくれて。
俺にとっては美依が傍に居て嬉しい半面、少しだけ苦難もある。
そんな日々の始まりだった。
どんな『苦難』か、その時の俺はまだ気づいていなくて。
ただ美依に申し訳ない気持ちと、ここぞとばかりに面倒見て甘やかしてやるぞと。
自分の『本当の気持ち』には気づけず、ただただ美依の世話を焼けるのが嬉しい、それだけだったのだ。
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