第5章 エゴイズムな純情戀歌《前編》* 豊臣秀吉
────事の始まりは
ひょんな事がきっかけの"事故"だった
お前は妹なのに、
妹のはず、なのに……
俺は、
お前を『妹』に見れなくなってしまって、
とんでもない失態を犯す。
そんな、ある"苦悩"の日々の話。
「美依…悪い、本当に悪かった…!」
ある日の昼下がり。
俺は家康に手当されている美依に、全力で頭を下げていた。
そんな俺を、家康は呆れたように見て…
小さく溜め息をつきながら、丁寧に美依の腕に包帯を巻いていく。
「確実に折れてますよ、これ。あんたより一回りも小さい美依を押し潰すとか…」
「それに関しては言い訳はしない、俺の責任だ。美依、本当に悪かった…!」
「秀吉さん、そんなに謝らなくていいんだよ。完全に事故だったんだからさ!」
「いや、俺がもっと気をつけていれば良かったんだ」
落胆を隠せない俺は、もう美依にひたすら謝るしかない。
何があったかと言うと、始まりは今日の昼過ぎだった。
城の庭で、美依が踏み台に登り、木の所で何かやっていたので…
声を掛けてみれば、風で手拭いが飛ばされてしまい、木に引っかかってしまったと言うのだ。
だが、踏み台に乗っても、背の低い美依には届かなかったようで、俺が代わってやり。
代わりに踏み台に登って、手拭いを取ってやった。
……と、ここまでは良かったのだが。
その踏み台…どうやら古くて脚が脆くなっていたんだな。
美依の重みでは大丈夫だったのだが、俺の重量には耐えられなかったようで。
バキッ!っと言った時には、もう遅い。
一人で下に落ちる分には問題なかったのだが、最悪なこと下にいる美依を巻き添えにしてしまったのだ。
美依を押し潰す形で落下してしまい、当然…怪我もするよなぁ。
(まさか、骨を折っちまうなんて)
骨を折るなんて、重傷だ。
可愛くて可愛くて仕方ない美依にこんな怪我を負わせてしまうなんて、俺は俺が許せない。
しかも利き手の腕だ。
生活にも不自由は出るだろう、針子としての仕事もしばらく休まねばならなくなる。