第4章 蒼き隻眼竜の逆鱗 * 伊達政宗
「政宗に、こんな傷ついた顔させるなんて」
「……」
「言いにくいって言ったのは、その…あまりに子供っぽくて自分よがりな理由だったからなの」
「……?」
「実は、視察に行った時、信長様に悩み相談をして…」
美依がぽつりぽつりと話し出す。
その話を簡単にまとめると。
浮かない顔をしていた美依に、信長様は悩んでいる事があるのかと尋ねてきたらしい。
それで美依が信長様に話した事。
それは───………
『政宗がヤキモチを妬いてくれない』
「はぁ……?!」
「なんかね、私ばっかり政宗が好きすぎて、ちょっとした事でもヤキモチを妬いちゃって…でも、政宗はそういう事ないでしょ?」
「美依……」
「だから、私の気持ちのが大きすぎるって、たまにはヤキモチを妬かれたいって信長様に相談したの。そうしたら…」
信長様は言ったそうだ。
『貴様よりも政宗の方が入れ込んでいるように見えるが』と。
でもそれでも、私のが絶対気持ちが大きいと言い張る美依に…
信長様らしい『ヤキモチの妬かせ方』を提案したのだそうだ。
「それが、口づけの痕を残すって事だったのか?」
「うん…他の男の人が口づけた痕が残ってれば、さすがの政宗も嫉妬くらいはするだろうって言うから」
「で、お前はそれを承諾したと」
「ちょっとだけでもヤキモチを妬いてほしくて…まさかこんなに怒るとは思わなかったから、そのっ…逆に戸惑っちゃって理由を言えなくて。ただのわがままだし、子供っぽい理由だから…本当にごめんなさい。信長様とは本当に何もなかったんだよ」
(なんだ、そういう事かよ……)
脱力して、物も言えない。
こんな可愛い美依の悩み事に、俺は苛立ってこんな風に襲ったわけか。
本当に自分が情けないったらありゃしない。
それに信長様の事だから、こうなる事くらい予想していただろうし。
全く手のひらで転がされた感が否めない。
だけど、良かった。
美依は心が変わった訳ではなかった。
信長様とも、何も無かった。
まぁ、一回でも美依の肌に触れたのは気に入らないけれど。
それでも───………
『政宗の方が入れ込んでいる』は。
────本当にその通りなんだけどな?