第4章 蒼き隻眼竜の逆鱗 * 伊達政宗
「え、ええと、その、これは……」
「なんだ」
「……っ」
口ごもってそれ以上言わない美依。
……嫌な予感がする。
しかも的中しそうな、そんな予感が。
不安に駆られ、それを隠せず美依を見下ろしていると…
前にいる信長様がくっ…と笑い、そして。
さも愉快そうに、俺達を見ながら言った。
「────それは、俺がつけたのだ」
(────…………!!)
まるで、冷水でも浴びせられた心地になる。
思わず顔を上げれば、信長様の紅い瞳と視線がかち合った。
何を考えているか解らない、その紅玉は…
可笑しそうに細められ、俺を見据えている。
────まさか、この視察
考えが良からぬ方に飛んだ。
まさか『視察』『反物の買い付け』は嘘だったのではないか?
二人で過ごす時を作り…
その過程で、美依は信長様に痕を付けられたのでは。
痕を付けること、それは即ち……
二人しか知らない、秘め事を。
(………許さねぇ)
さっき見て見ぬふりをした黒い感情。
それが一気に噴き出した心地がした。
はなからこの視察を『気に食わない』と思っていた。
他の男と同行させた俺も馬鹿だったのだ。
信長様だからと甘く見ていた。
こんな他の男に痕を残されるなんて…
こんな事、あっちゃならない。
美依は俺のものなんだよ。
心も身体も…髪の一本一本でさえ。
何ひとつ、他人に譲れるものはない。
可愛い可愛い、俺の美依
穢されるなんて…そんな事が許せるか。
「美依…ちょっと来い」
「え、政宗……?!」
「いいから来い!」
半ば強引に美依の腕を引く。
そのまま歩き出せば、美依は俺に引きづられるようにして付いてきた。
美依に真意を確かめなければ。
こんな口づけの痕を残されて…
一体視察中、何をしていたのか。
俺の予想通り、二人は深い仲になったのか。
そんな事は許されない。
美依は俺のもので、俺も美依のもので…
それは未来永劫変わらない。
お前は俺の"唯一"なのだから。