第4章 蒼き隻眼竜の逆鱗 * 伊達政宗
(……気に入らねぇな)
次第に心の中の黒いものが濃くなり始めた。
俺は知らない、でも信長様は知っている。
よりにもよって、美依の事で。
その事がやたらと引っかかり、もやもやと煮え切らない気持ちが沸き上がる。
だが、それを知られるのは格好悪い。
こんな小さな事を気にするなんて…
器の小さい男だと、美依を失望させるかもしれない。
そう思い、俺は笑みを浮かべると…
信長様の方を向いている美依を後ろから掻き抱き、わざと耳元で明るい声を出した。
「なんだ、お前。信長様に迷惑かけたのか?」
「えっ…迷惑って言うか……!」
「天下人の手を煩わせるなよ?」
「うーー……」
美依の肩に顎を乗せ、揶揄うように言えば、美依は少し不服そうに唸る。
否定しないあたり、何かあったのは確信していいだろう。
まぁ、いい。
御殿に帰ってから、甘味でも食べながら話を聞いてやろう。
悩みなら悩みで…
美依の力になってやれるかもしれない。
心の"黒いもの"を無視し、そう俺は思い直した。
その、瞬間だった。
(────え?)
間近にある白い首筋。
そこに『有り得ない』ものが見え、俺は思わず目を見開いた。
丁度、襟の境らへんの肌。
今までは髪に隠れて見えなかったが…
そこにくっきり咲いていたのは赤い華。
それは───………
紛れもなく口づけの痕に相違なかった。
美依と信長様が安土を発って十日あまり。
出立前の夜は疲れたら困るからと美依を抱いていないし、こんな場所に口づけた記憶もない。
つまり、旅の途中で誰かにつけられたのだ。
一体、誰に?
「……美依」
「うん?」
「これ、どうした?」
「え?」
「ここ」
「あっ……」
俺が肩から顔を上げ、その場所を指で触れると、美依はびくっと肌を震わせ瞬時に首筋まで赤く染めた。
なんだ、この反応。
照れているのか、恥ずかしいのか。
美依はそのまま焦ったように自分の手で押さえると、少し俯きながらたどたどしく声を紡ぐ。