第2章 拝啓 愛しい君へ《前編》* 明智光秀
「……っ」
「どうした、美依。何か良からぬ事でも書いてあったか?」
「い、いえ…っ」
ある冬の日の昼下がり。
天主で光秀さんからの文を読んで…
私は思わず目を見開き、叫びそうなのをぐっと堪えた。
光秀さんが安土を発って数日。
今回は内緒の諜報活動ではなく、信長様から直々に命が下り、光秀さんは諸国へ出向いていた。
そんな光秀さんから私宛に文が届いたと聞き、天主に来たのだけれど…
その文に爆弾発言が書いてあり、うっかり声を上げそうになってしまったのだ。
(俺はお前の事を愛しているよって…!)
追伸に何気なくさらりと書かれていた言葉。
それは紛れもなく…私への愛の告白だった。
つまり、これってラブレター?
私、光秀さんにラブレターで告白されたと、
……つまりは、そーゆー事なの?
「どうした、顔が真っ赤だが」
「な、な、なんでもありませんっ…」
「文には何と書いてあったのだ」
「へ?!あ…三日後安土に帰って来るって」
「……本当にそれだけか」
「は、はいっ…」
信長様の鋭い視線が痛い。
誤魔化すにも衝撃的すぎて…
なんかもう、どんな態度で居ればいいか解らない。
下手に動揺すれば、何事かと思われるかも!
いや、もう信長様には変だと思われてる!
私は居ても立ってもいられなくなり、文を握り締めて立ち上がった。
「行くのか、美依」
「はいっ、文…ありがとうございました…っ」
信長様にペコッと頭を下げ、逃げるように天主から転がり出る。
絶対変だと思われたはずだ、でも。
(こればっかりは話せないよ…!)
バタバタと廊下を走りながら自室に向かった。
途中で秀吉さん辺りに『美依、廊下は走るな!』とか注意された気がするけど…
そんなのは耳に入って来なかった。
とにかく恥ずかしくて、恥ずかしくて。
『愛しているよ』という文字が、光秀さんの声で再生される気がして…
私は急いで自室に戻ると、ヘナヘナと壁にもたれて座り込んでしまった。
そして、もう一度握り締めた文を開き、文字を目で追う。
そこには間違いなく『愛しているよ』の文字。
改めて、光秀さんから告白されたという事実に…
顔から火が噴きそうなくらい恥ずかしくて、私は思わず手で顔を覆ってしまった。