第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
(……案の定、だったな)
自室に戻ってみれば、隙間なくぴったりくっついて褥が二組用意されており、その上に座って美依が固まっていた。
あーあ、顔真っ赤だし……
何を想像しているのだろう、それはそれで可愛いが、心境を考えると少し可哀想な気も。
「────美依」
「っ……!」
俺が襖の所で名前を呼んだら、美依は大袈裟なまでに体を跳ねさせ俺の方を向いた。
俺が来たのにも気づいていなかったようだ。
よっぽど何か考え込んでいたに違いない。
「女中が間違えて、俺の部屋に美依の分も用意したみたいで……ごめん」
「あ、そ、そうなんだ……」
「あんたはここの部屋使って。俺は客間に移動するから」
「えっ……」
俺が布団を軽く畳み、移動させようとすれば、美依は驚いたように目を見開いた。
一部屋で夜を過ごすなんて、絶対だめだろう。
それは色んな意味でまずい、俺の理性的な意味でもだ。
(好きな子が隣に寝てるなんて、考えただけで眠れなくなる)
きっと寝顔や色んなものを想像してしまう。
その無防備に立てる寝息を聞けば、それは心を過敏に刺激して、俺を眠れなくさせるだろう。
それはそれで明日が辛くなる。
俺の為にも美依の為にも、離れた方が絶対いい。
そう思っているのに……
美依は俺の腕を掴んでそれを止めた。
「私は大丈夫だから!」
「え?」
「ここは家康の部屋なのに、家康が移動するのはおかしいよ。それに…もう布団敷いちゃったんだからさ」
「……」
「家康が嫌じゃなかったら、だけど……」
最後は尻窄みになって、声が小さくなる美依。
目まで泳いで、白い頬が朱に染まっていて。
可愛いな、今すぐ全てに触れてみたい。
照れているのか、恥ずかしいのか解らないが、何にせよその顔を夜にするのは絶対だめ。
(俺の理性が持たなくなる、でも)
美依がそう言っているのに、それを押し切って移動したんじゃ、意識しているのが丸わかりだ。
そんな事をすれば、空気がぎくしゃくするだろう。
そうなるくらいなら…我慢するしかない。
「……別に嫌じゃないけど」
そう答えたら、美依は安心したように表情を緩めた。
……そういう無防備さも可愛いけどね。