第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
そのまま俺達は褥に横になる。
『おやすみ』と声を掛けたら、美依も同じ言葉を返してきた。
……なんか、夫婦みたいだな。
それを思ったら、頭が沸騰しそうになった。
行燈の灯りを消し、真っ暗になっても、美依の気配を感じる。
むしろ顔が見えない分、息遣いとかが耳に入って。
(……やっぱり眠れないでしょ、これ)
半ば諦めに近い感情に支配された。
真っ暗闇の静寂の中、俺の心は敏感に尖って……
寝返りを打つ時の布擦れの音すら、ひどく耳に付いたのだった。
*****
(……案の定、眠気なんて来ないな)
真っ暗な中、だんだん目が慣れてくる。
天井を向いて何度か目を瞑るも、やって来ない眠気に、俺は眠ることを早々に諦めた。
隣の褥で好きな子が眠っている。
それだけで、なんかもう色々と無理である。
逆に美依は安眠してそうだな。
寝返りを打って顔を見たくとも、それを見てしまったら歯止めが効かなくなりそうで、美依の様子すら確認出来ない。
だが、耳を澄ませても雨音だけで、寝息のようなものは聞こえてこないから…美依も起きてるのか?
そう思考を巡らせていた時だった。
「けほっ……」
「……」
「けほっ…ごほっ……」
(咳……?)
なんだか噎せているような声がして、俺は上半身を起こした。
そのまま暗がりで美依を見ると……
小さく丸くなって、美依が背を向けているのが解った。
「美依、大丈夫?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、起きてたから大丈夫。喉、痛いの?」
「なんか急にいがらっぽくなっちゃって、風邪の引き始めなのかな」
そう言って、美依も上半身を起こす。
最近朝晩は冷えて昼間は暑い、初秋特有の日中の寒暖差があるからな。
体調を崩しやすいと言えば、崩しやすいのかも。
加えて今夜は雨、いつも以上に冷えるのかもしれない。
……確か薬品棚に、蜂蜜を混ぜた水飴があったな。
それを思い立ったが、薬品棚は美依のすぐ横で、俺の場所からは少し離れている。
俺は行燈をつけ直し、美依に向かってその事を告げた。