第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
「うん、お言葉に甘えて泊まっていこうかな」
「じゃあ、女中に準備させる」
「ありがとう、助かるよ」
直後、美依は俺を見上げてふにゃりと笑う。
ああ、これは何も疑ってない顔って理解していいだろう。
まあ、疑う理由も何もないけれど。
(それでいいんだけど…何俺はがっかりしてるんだ)
ほっとする判明で、若干複雑になった。
俺は男と見られていないのかな。
『泊まっていくか』の問いかけに、少し動揺したように見えたけど、勘違いだったのかもしれない。
でも、これで美依と一緒にいられる時間が増える。
それは……素直に嬉しいかな。
俺はそのまま女中を呼び、美依が泊まっていくことを伝える。
女中は心なしかびっくりしつつも、どこか微笑ましく笑んでいた。
……変な事を想像されると困るのだが。
『本当にそうなったら』嬉しいけれど、それは絶対有り得ないし。
恋仲でもない子をどうにかする程、俺は人でなしではない。
────それでも、どこか望んでしまう
美依と既成事実でも作ってしまえたらと
「え、俺の部屋に二組布団敷いたの…?」
湯浴み後、俺は廊下で焦った声を上げる。
原因は女中の言った言葉だ。
『家康様の部屋に美依様のお布団も準備しておきました』なんて言うから。
さすれば、女中は逆にびっくりしたような表情を浮かべ、俺に遠慮がちに聞いてきた。
「てっきり一緒にお休みになられるのかと思いまして……違いましたか?」
「全然違う、俺と美依は恋仲でもなんでもないし、美依は客人だし……はあ」
「も、申し訳ございません……!」
女中が申し訳なさそうに、何度も頭を下げる。
それを見ていたら、怒るに怒れなくなってしまった。
女中達には、俺達は"そういう風"に見えていた訳で、それは嬉しい半面で少し切ない。
実際、恋仲でも友人でもないしな。
だから、一緒の部屋で寝る訳にはいかない。
男と女だし、常識的に考えてもそうだろう。
「布団は俺が客間に運ぶから」
謝る女中にそう言って、俺は自室に戻った。
美依は先に湯浴みを済ませている、多分俺の部屋で戸惑っているに違いない。