第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
「家康、美味しい?」
「……悪くないんじゃない」
「そっか、なら良かった!」
(美味しいって言ってないのに…可愛い)
向かい合って座り、美依と食事を進めていく。
美依が作った夕餉は、本当に絶品だった。
鷹の爪が入った、少し辛めの煮物とか。
山椒がよく効いた鱧焼きとか……俺の好みをよく把握していて、腹の中がこれでもかと言うほど満たされていく。
勿論、美依が作ってくれたというのも大きい。
好きな子の料理だから、身も心も満足するのか。
とにかく......美味しいし美依が傍に居るしで、これ以上ないくらい幸せだ。
……後は、素直に美味しいと言えれば
ひねくれ者の自分が恨めしい。
『美味しい、ありがとう』と伝えられれば、美依はもっと笑顔になるのに。
食べながら美依の表情を盗み見ると……
美依は箸を置いて、何故か障子の方をじっと見ていた。
「どうしたの?」
「雨の音がするなぁと思って」
言われてみれば、雨が降ってる音がする。
俺は一旦立ち上がり、庭に面する障子を開けて外を見た。
すると、暗い夜空からは大粒の雨が降り注いでいて、土砂降りまではいかないが、かなり強く降っているのだろう。
庭にも水溜まりがいくつか出来ているのが解った。
「結構降ってるな…美依、帰れる?」
「今日晴れてたから、傘は持ってきてないんだよね……どうしようかな」
「……」
傘を貸すか、心配だから城まで送るか。
頭の中で色々と思考を巡らせる。
でも……"これ"が一番手っ取り早い。
美依が了承するかは解らないけど。
俺は一回小さく息をつき……少し緊張して、その台詞を紡いだ。
「……今日、泊まってく?」
「えっ……」
「雨の中帰るの大変でしょ、風邪ひいたら大変だし。……嫌なら、別にいいけど」
(……何も深い意味は無い)
変に自分に言い訳しながら、美依の返事を待つ。
そう、言葉通りの意味だ。
風邪なんか引かそうものなら、秀吉さん辺りが絶対うるさくなるし。
……そうそれだけ、の筈。
振り返って見れば、美依は少し緊張したように表情を強ばらせていて。
でも、俯き気味にぽつりと返事を返してきた。