第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
────そんな気持ちとは裏腹、
運命の歯車は奇妙に回りだすのだ
信長様に預けられた、この胡散臭いシロモノ。
それのせいで、頭痛くなるような大騒動が起こる羽目になるとは……
この時の俺はまだ、知る由もない。
その時の俺は美依が隣にいて、飯を作りに来てくれて。
(……美依の手作り料理、嬉しい)
それしか考えていなかった。
ただ、手の中にある壺はやたらと熱を帯びていて。
不思議に思うと同時に、相当厄介なものかもと予感したのだけれど。
*****
「……やっぱり厄介だな、これ」
美依が厨で夕餉を支度している合間に、惚れ薬の検証を進めていく。
が、それを進めれば進めるほど、厄介なシロモノだと解ってきた。
要は『成分の解析が困難』であることが判明。
理由は、あまり出回っていない植物が使われていること。
俺の手元に見本がないため、これを使用した時の解毒方法も解らないというのが結果だ。
……確か明からの献上品って言ってたな。
向こうは大陸だし、日ノ本よりもずっと文化も進んでいるという話だ。
だから、日ノ本ではあまり見ない植物なんかもあるのかもしれない。
そんなもん使われてしまったら、検証や解析なんてはっきり言って無理に等しい。
(効果を知りたいなら、実際使ってみるのが一番手っ取り早いけど……それはあまりに危険だし)
別に効果なんて知りたくもないし。
だが、信長様に報告はしなければならないから……もっとじっくり時間をかけて検証を進めるか。
俺は匙を置くと、壺の蓋を閉めた。
そして、薬品棚の一番上の端っこに壺を置く。
ここなら誰も触るまい。
ただ、他の薬と壺の見た目が似てるから、間違わないようにしないと……
そう思っていれば、廊下から足音が近づいてきて、襖が静かに開かれた。
「家康、夕餉出来たよ!」
「美依、ありがとう。こっちも一段落ついたから」
「良かった!じゃあ、お膳を運ぶね」
顔を出した美依は花が咲くように可愛らしく笑い、また厨に戻っていった。
よく解らん薬より、美依の夕餉のが重要だ。
俺は頭を切り替え、腕を伸ばして伸びをする。
夕餉が楽しみなんて久しぶりだ、ささやかな幸福を感じ、思わず口元が緩んだ。