第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
「家康〜〜!待って待って!」
背後から何やら俺を呼ぶ声が聞こえて、俺は一回立ち止まると後ろを振り返った。
すると、美依が駆けてくるのが見えて……
美依は案外早く俺の元に辿り着くと、膝に手を当てて荒い呼吸を繰り返した。
「家康、歩くの早いよ……!」
「何か用?そんなに急いで走ってきて」
「今日は夕餉を作りに行く約束してたでしょ?せっかくなら一緒に御殿へ行こうと思って」
(そう言えば、飯を作りに来るって約束してた)
数日前に交わした約束が頭を過ぎる。
それが楽しみで仕方なかったのに、信長様のいきなりの招集で頭から抜け落ちてしまったようだ。
美依が夕餉を作ってくれて、それを一緒に食べられるなんて、まるで恋仲みたいだ。
まあ、実際は恋仲どころか友人とも呼べない、微妙な関係であるけれど。
────片想いして、もう長い
素直で頑張り屋、そして笑顔が可愛い。
魅力的なこの子に惹かれるのは、当然だと思った。
俺自身、色恋が豊富な訳ではない。
それに、俺が目指すべきもの、なりたい自分を叶えるためには恋愛感情など邪魔だとも思っていたし。
でも好きな気持ちは強くなる一方で、諦められない自分がいたのも確かで……
そんなどっちつかずの自分自身では、気持ちを伝えるなど無理だと思っていた。
……伝える勇気も、無いんだけどね。
「あんたそそっかしいんだから、あんまり走ると危ないよ。ゆっくり来て良かったのに」
「私が一緒に行きたかったの!あれ、その壺どうしたの?」
「これは…なんでもない。さっさと行くよ」
美依の質問をさらりと交わし、また歩き始める。
究極の惚れ薬…なんて危ないもの、美依には知られたくない。
ただの成分解析だけど、それまではこの子の手に触れない場所で保管しなくては。
もちろん"惚れ薬"なんて信じてはいないが、多少危険な匂いがするのには間違いないから。
だって、例えば本当に惚れ薬だとして、それを美依が飲んでしまったら。
真っ先に見た誰かを好きになってしまって、それが俺ではなかったら……
(そんなの、絶対駄目だ)
俺以外とこの子が恋仲になるなんて、見ていられない。
この子と恋仲になるのは…絶対に俺だ。