第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
「家康、これを貴様に預ける」
「成分の検証……ですか、はあ」
「貴様にうってつけだろう、家康」
「……まあ、別にいいですけど。じゃあ、俺はこれで」
俺は壺を片手に立ち上がる。
そのまま、誰より先に広間を後にした。
薬の成分の検証なんて、確かに俺にしか出来ないだろう。
興味がない故に気は進まないが、信長様から頼まれれば仕方ないことで。
……いや、興味がない訳ではないか。
『見た者を惚れさせる事ができる』なんて、そんな便利な代物があったなら───………
"あの子"も俺を好きになるのか?
家康が広間を出ていった後。
その様子を見ていた信長は、可笑しそうに笑って上座に戻った。
「あれは家康の手にあるのが相応しいだろう」
「と、申しますと」
「秀吉、あやつの片恋慕に気づいてない訳でもあるまい」
「まあ、確かにそれはそうですが」
すると、廊下からパタパタと走る音が聞こえ、広間の襖が開いた。
姿を見せたのは美依、広間の中を見渡し…目当ての者が居なかったのか、頭を斜めに傾げた。
「お疲れ様です!家康、帰っちゃいました?」
「さっき出ていったばかりだから、今なら追いつくんじゃないか?」
「ありがとう、政宗。追いかけてみる!」
美依は話を聞くとぱっと表情が華やぎ、そのまま一礼してまた忙しなく広間を出ていった。
それを見ていた武将達は顔を見合わせる。
すると、光秀が口角を上げ……
信長に向かって、先程の発言を訂正した。
「両片恋慕の間違いでは、信長様」
「それは当人同士だけが気づかない事実だな」
「まさか信長様、わざと…ですか」
「それは知らん。薬の解析結果を待て」
「ま、焦れったいからな、あの二人」
政宗も愉快そうに言いながらも、優しい眼差しで美依が去った方を見る。
それは皆も同じだったようで、信長も秀吉も光秀も、慶次、蘭丸も……
少し笑みを浮かべて顔を見合わせた。
ただ一人、三成だけが不思議そうな顔をして、
「……なんの話でしょう?」
その紫の瞳を細めたのだった。
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