第24章 あの子を射止めろ!恋して蜜薬《前編》* 徳川家康
『究極の、惚れ薬───………?』
初秋の安土城。
信長が明の使者から受け取った、とんでもない『秘薬』が城中に大騒動を起こす羽目になる。
惚れ薬の犠牲者は誰なのか、
はたまた誰が誰に飲ませ、
誰が誰を好きになってしまうのか。
そもそも"惚れ薬"は本物なのか?
美依に片想いするある武将と、
これまたその武将に片想いする美依。
両片想いの行方はいかに、
武将達を巻き込んだドタバタ大騒動、
ここに開幕───………!!
***
「これはまた…珍妙な秘薬があったものだ」
「究極の惚れ薬ねぇ、本物かどうか怪しいところではあるけどな」
「ただ、持ってきたのが古い歴史のある明からの使者…もしかしたら我々の知らない秘術で作られたものかもしれません」
(馬鹿らしい……ほんと帰りたい)
ひとつの壺を真ん中ににして、それを覗き込みながら口々に思いを言葉にする武将達とは裏腹、俺は一歩下がった所で溜息をついていた。
何でも『誰でも惚れさせることが出来る、究極の惚れ薬』という訳分からん代物が、信長様に献上されたらしいという事で。
当然ながら、武将達は広間に集められ、信長様からその怪しい代物を披露されたのだが……
正直、馬鹿らしい以外何者でもない。
惚れ薬だなんて、そんな都合の良いものがあるもんか。
使い方次第では危険なものになりそうだし。
こんな薬ひとつで人の心が左右されるとも考えにくい。
まあ、少し鼓動が早くなる強心薬とか、体が熱くなる媚薬系とか……そんな物だろう。
だが、武将達は興味津々といった様子。
……よっぽど射止めたい誰かがいるのか。
すると、上座でその様子を見ていた信長様が広げていた扇子をパチンと閉じた。
そして、にやりと不敵に微笑むと……
俺達にその使い方と効果を説明する。
「その薬をひと匙飲んだ後、最初に見た者に惚れるという話だったな。どういう原理かは知らんが、飲むとどうなるのか興味はある」
「ご自分で試される気ですか、信長様」
「それも愉快だが、献上品と見せかけて殺されそうになった経験は幾度となくある。故に、成分の検証が先だろう」
信長様は立ち上がると、輪の中心にある壺を拾い上げる。
そして、少し離れた俺の元にやって来て、目の前にそれを置いた。