第23章 拗れた微熱は指先に溶けて《後編》* 石田三成
(……でも、言えない事情とはなんだろう)
私に黙って、男と会っていた理由。
美依様が私には話さない方がいいと判断して、そうしたのだから、本来ならば聞かない方が良いのだろうけど……
気になるのは確かだ、私にとって良くない事なのかもしれないが。
でも、体調を崩した今聞くものでもない。
回復したら、さり気なく聞いてみるのがいいかもしれないな。
そう思っていると、美依様が手のひらに力を込め、ぎゅっと握ってきて。
私の思いとは裏腹、一生懸命言葉を紡いできた。
「三成君こそ何も悪くないよ、謝らないで。私が勝手に隠していただけなんだから。あのね、その事なんだけどね……」
「体調が悪いのですから、無理して話さなくて大丈夫ですよ。回復してからでも……」
「ううん、話させて。三成君に知ってもらいたいから」
俯き気味で、ぽつりぽつりと話し出した美依様。
話を要約すると……
美依様の元に、ある男から恋文が届くようになったのが始まりだったらしい。
それはお得意様の息子らしく、以前私が美依様に届けた文も、その男からの文だったんだとか。
美依様は恋仲の人がいるから、想いには応えられないと返事をしたようだけど……
それなら一回でいいから逢瀬をしてくれと、そうしたら諦めるからと。
美依様は渋々それを承知し、会っていたのが例の茶屋での事らしい。
……これだけなら、別に私に隠しておく必要もないとは思うのだが。
どうやら文に書かれていた一文が気になって、美依様は隠れて会いに行く事を決めたらしい。
「……何と書かれていたのですか?」
「"恋仲の男が羨ましい。その方が居なければ私の方を向いてくださいますか?"みたいに書いてあって。その書き方が気になって……もしかしたら、三成君に危害を加える気なんじゃないかって」
「……」
「私の事で三成君に何かあったらと思ったら怖くて……私だけで収まりをつけられたらって思ったの」
(……私を、守ろうとしてくださったのか)
その健気な思いに、思わず胸が熱くなる。
私の為を思って、一人で抱え込んでいたのだろう。
その真意を知らずに、変に疑って……そんな自分が少し恥ずかしく思う。