第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
「み、つ……んんん……っっ!」
唇の角度を変えた時、美依様が私を呼びかけたが、それを遮ってまた塞ぐ。
己の体で逃げないように覆い、何度も柔らかい肉に吸い付いた。
貪るだけ貪って離せば、唇の間には細い銀糸が伝い……
私はそのまま顔を落として、美依様の首筋へと顔を埋める。
細く白い首の表面を強めに吸ったら、美依様はびくりと肌を震わせた。
「痛っ……!」
「ん、上出来です」
唇を肌から離すと、そこにはくっきりと鮮やかな赤い花が咲いた。
着物でも隠れないその位置に付いた所有痕。
美依様はそれを察したのか、目を潤ませながらも怒っているように釣り上げた。
「こんな、目立つ場所に……!」
「貴女が正直に話さないからでしょう。言わなければ、もっと酷くしますよ」
「っ……三成君、ひどいよ!」
「ひどいのは貴女でしょう、隠れて男と逢引して」
「あ、逢引って、そんなんじゃないよ!」
「では、何だと言うのです!」
互いに声を張り上げ、相手を睨む。
さすれば、美依様の瞳には見る間に涙が溜まっていき……
やがて、それは目の端から一筋の線を描いて流れた。
(あ………)
唇はワナワナと震え、その酷く"傷ついた"と言わんばかりの顔を見て我に返る。
思わず襖に固定した手を緩めてしまえば、美依様は私の胸を手で押し退けて。
そのまま涙を拭いながら、震えた声で言葉を紡いだ。
「隠れて逢引だとか、こんな風に痕つけたりとか…なんで、私をもっと信じてくれないの……?」
「美依、様……」
「私だって理由を言えたら、どんなに…っ」
「あ……!」
美依様はそのまま私をすり抜け、走って行ってしまった。
後を追いかけようにも体が動かず、ただ後ろ姿を見送るだけしか出来なくて。
部屋から出ていき、足音が遠ざかって……
『私だって理由を言えたら、どんなに』
その言葉に愕然となる。
美依様は、私に言えない訳があったのだと。
今更ながらにそれに気づき、思わず口元を手で覆った。
隠し事をされたと、私は美依様を責めた。
言えない事情があったなんて考えもせず……
ひたすらに視野が狭くなって、醜い嫉妬心に蝕まれていたのだ。