第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
「あの男は、一体誰なのですか?」
「え?」
「茶屋で貴女と一緒にいた男です」
「……!」
「随分と仲睦まじくしておられたようだ」
私が言えば、美依様はますます目を見開き、そこで初めて顔を逸らした。
『まずいものを見られた』といった反応か。
私を見ていられなくなったのは…やはりやましい事があるからですか。
私は美依様の顎に指を掛け、半ば強引にこちらを向かせる。
若干戸惑っているように見える黒真珠の瞳。
戸惑っているのは、こちらの方です。
しっかり理由を聞かねば、納得のしようもない。
すると、美依様は視線を俯き気味にしながら、まるで言いにくそうに言葉を紡いだ。
「あ、あれは、その……何でもないよ」
「あんなに仲良さそうにお話されていたのに、何でもないと。ですが、私に秘密で会っていたのでしょう?」
「そ、それは、そのっ……」
「理由を言えないのですか?」
「っ……」
美依様は唇を噛んで、口篭る。
その煮え切らない態度が、私の心を逆撫でした。
恋仲の相手がいるのに、男と二人きりで会うなんて、そんな場面を見れば疑うでしょう?
その関係を、仲良くしていたのなら尚更。
なのに美依様は『何でもない』と言う。
何でもないなら話せるはずだ。
話せないのは……親密な相手だからか。
────ならば、無理やり吐かせるか
頭の中で、何かが切れた気がした。
ぷつんと、実際にそんな音がした気がして。
さすれば目の前で視線を逸らす愛しい恋人が、やたらと歪んで見えた。
言わないのなら、言わせるまで。
美依様の言わない"何か"を暴かなければ。
そうしなければ…この心の中の黒いもやは晴れない。
「んんっ……!」
私は顎を掬い上げ、強引に唇を塞いだ。
無理やり唇を割って舌を差し入れて、まるで噛み付くように吐息まで奪う。
荒々しく舌を絡め取り、甘く蕩かすどころか、乱暴に犯すみたいに口内を責めて。
美依様は苦しいのか、私の胸元をこぶしで叩いてきたから、それを掴んで襖に縫いつけた。
その小さな体を閉じ込め、食らいつく私はまるで、小動物を喰う獣のようだ。