第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
その態度がなんだかとても気になったが、それでも私にとっては"何も"なかった訳ではない。
だから、美依様が話しやすいようにこちらから尋ねるのが一番だ。
(大丈夫、冷静に、冷静に……)
今日一日何をしていたのですか、とか。
先程まで姿が見えなかったが、出かけてたんですか…とか。
聞きようはいくらでもある、だからこちらも普通に尋ねてみればいい。
己の心を落ち着かせ、一呼吸ついてから美依様と向き合う。
すると、美依様は私を見上げ、少し不思議そうに首を傾げた。
「三成君、真面目な顔してどうしたの?」
「美依様、今日おやすみでしたよね。一日どのように過ごされたのですか?」
「さっきまで針子部屋に行ってたの」
「針子部屋に……?」
「今日の納品分を手伝ってきたんだよ。さっき仕上がって、やっと帰ってこれたの。まさか三成君のが早いとは思わなかったな」
美依様は朗らかに言葉を続ける。
だが……それが明らかに『嘘』だと言うのは明白だった。
だって、美依様を茶屋で見かけたのは半刻ほど前で、私は男と茶を飲む姿を目撃している。
なのに『針子部屋に行っていた』などと言うのは…やはり私に知られたくないからなのか。
────何故、嘘をつくのです?
やましい事がないのなら、正直に言えるはずだ。
例えば友人とか、知り合いとか得意先の誰かとか、それならば隠す必要もない。
だが、嘘をつくと言う事は……
私に隠したい"何か"があるからだ。
秘密に会って、あんなに親しげにしていて。
それは……一体どういう理由なのか。
心に燻る黒い炎が燃え上がる感覚。
それは醜い劣情だと解っている。
それでも……貴女は私のものだから。
他の男と、親しくしないでほしい。
「……嘘、ですよね、それ」
「え?……あっ」
私は美依様の肩を掴み、やや強引に襖へと美依様の体を追いやった。
そのまま背中を押し付け、手を顔の横について、襖と己で美依様を閉じ込める。
美依様は驚いた顔で私を見つめてきて……
そんな顔を見ていたら苛立ちまで覚えて、駄目だと思いながらも美依様を責めるような言葉が口をついで出た。