第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
「美依、様……?」
視線の先にあった茶屋。
その席に、美依様が座っていた。
……知らない男と一緒に。
その姿はとても仲睦まじく見え、それは一見恋仲にも見えなくはない。
家康様が傍で溜息をついたけれど……
それすらも気にならないくらい、私は内心を乱されていた。
(一体、誰ですか……?)
今日美依様が男と会うなんて話は聞いていない。
私に内緒で、こっそり会っているのですか?
美依様は私と恋仲なのに……
何故、私の知らない男と仲良くしているのですか?
────心にどす黒い炎が灯る
それは燻るようにじりじりと燃え、私の心を少しずつ焼いてしまうような感覚を覚えた。
目の前の光景が信じられなくて、私は思わずこぶしを握り締める。
何故、何故、その言葉ばかりが心に浮かんで……
醜い劣情がじわりと蝕んでいくのを、痛いくらいに感じたのだった。
*****
(……美依様、帰ってきていない)
最後の酒屋での公務が終わり、一目散に御殿に帰って来てみれば、美依様はまだ帰って来ていないようだった。
はっきり言って、その後は家康様に叱られっぱなしだった。
美依様の事が気になって、酒屋の主人の話は頭に入ってこないし、何回も間違えて書いてしまうし。
あの男は誰だろう。
何故、私に秘密で会ったりしていたのだろう。
そればかりが頭に浮かんで……
公務が手につかず、家康様にとても迷惑を掛けてしまった。
「落ち着け……大丈夫」
心の臓に手を当て、深呼吸をする。
このままだと、ひどく美依様を責めてしまうような気がして……
なるべくなら穏便に事を済ませたい。
大丈夫、美依様ならきちんと理由を話してくれるだろうし、大した事ではないはずだ。
そう思い直していると、部屋の襖が静かに開いて、今心に思っていた人物が顔を出した。
「あっ、三成君おかえり!」
「美依様……」
「公務お疲れ様、今日は早かったんだね」
いつものように柔らかい笑みを浮かべる彼女。
まるで何事もなかったかのように。