第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
「何をさっきからもたもたしてるんだよ」
「何故か先程から帳簿がよく見えないのです、眼鏡を掛けているはずなのですが……」
「……眼鏡、頭の上にあるんだけど。はぁ…なんで秀吉さんは俺に頼んだんだ」
すると、家康様が少し雑に眼鏡を掛け直してくれる。
頭の上にあったとは気づかなかった、教えてくれる家康様はやはり優しい方だな。
本来ならば秀吉様と市を回る予定だったのだが、急遽大名の謁見が入ったこともあり、家康様が代役をしてくださる事になった。
秀吉様は『仲良くやれよ』などと言っておりましたが…
私と家康様は読書仲間であるから仲違いなどするはずもなく、公務も滞りなく進んでいる。
秀吉様が家康様を選ばれたのは、きっと私達なら上手くやれると思ったからですね。
「ありがとうございます、家康様」
「これ以上面倒になる前に、さっさと終わらせるよ」
「あっ、お待ちください!」
家康様が早足で歩き出したので、私は急いで後を追いかけた。
あと一件だから、夕刻には御殿に戻れるだろう。
美依様は今日は休みだと聞いている。
せっかくのお休みに一緒に居られなかったのは残念だが……
帰れば二人だけの時間、そうしたらゆっくり美依様を可愛がってさしあげる事も出来そうだ。
(最近忙しくて、想いを交わす時も無かった)
寝る時間まで帰って来れなかったり、休みがすれ違ってしまったり…思えば文を渡した時以来、まともに話していないかもしれない。
あまり離れていると、余計に求めてしまって仕方ないので……
だから、公務が早く終わる時くらいは、一緒に甘い時間を過ごしたい。
そう思えば、足を進める速度も速くなる。
家康様が先に角を曲がったので、私もすぐに後を追って角を曲がった。
けれど曲がった瞬間、その背中にぶつかってしまう。
家康様が立ち止まったせいだと、すぐに判断した。
「家康様?」
「……三成、見ない方が」
「……え?」
言ってる意味が解らず、私はすぐさま家康様が向いている方向に視線を向ける。
だが、家康様が見ていただろう"それ"が目に映った途端、私は思わず目を見開いた。
その視線の先にあったものに……
私は瞬時に困惑し、色々な疑念が心に渦巻いたのだ。