第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
正直、色々臆測はしてしまうけれど……
美依様も言いたくないことの一つや二つあるだろうし、差出人を気にするのは少々下世話だ。
何かあれば、話してくれますよね。
そう思い直して、私は美依様を安心させるように指の背で頬を撫でた。
美依様は気持ち良さそうに目を細め、やがて朗らかに笑む。
いい笑顔だ、小さい事を気にするのはやめよう。
そんな風に、自分なりに結論づけた。
「お忙しいでしょうが、休憩も取ってくださいね」
「三成君も、何も食べずに本を読んでたらダメだよ?」
「あ…そう言えば昼餉を食べていませんね」
「ほらもう〜、言ってる側から!」
美依様の困ったような愛らしい笑み。
それを見ていたら、愛しさを覚えて心が疼く。
(今日も大好きですよ、美依様)
貴女と恋仲になれて、幸せです。
貴女のおかげで、私は満たされている。
蜜な感情を覚えながら、私も笑みを返した。
そうやって、いつも通りの私達だったのだけど……
この文は、私と美依様が拗れる発端になる。
『小さな事は気にしない』と見逃した事実が、のちに初の喧嘩を勃発させることになろうとは。
その時はそんな事には当然気づけず、私はただ美依様を愛しく想って、柔らかな感触を堪能してしていただけだったのだ。
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「三成、早くしろ」
「すみません、家康様!後は角の酒屋で終了ですね」
それから数日後。
私は家康様と城下にある市の店を訪れ、商いの様子や売上についての帳簿を付けて回っていた。
『民が潤えば、国も潤う』
信長様が商いの制度を見直してから、自由な商売が許され、国中が活気に溢れるようになった。
故にこうして定期的に店を巡って、直に声を聞くのも大切な御役目だ。
困った事は無いか、順調に商いが出来ているか。
聞くと同時に、何か綻びがあればすぐに対処する。
そうやって民が満足して商いを行えば、結果的に国が裕福になることに繋がるのだ。
(信長様の統治は上手くいっている、流石と言う他ない)
第六天魔王などと恐れられていても、信長様の信念が素晴らしいからこそ、こうして付いてくる民達がいる。
血も涙もない訳では無い、本当に…器の大きな方なのだ。