第22章 拗れた微熱は指先に溶けて《前編》* 石田三成
喧嘩するほど仲がいいとは、
よく言ったものだ。
確かにずっと一緒にいれば、
多少はすれ違うこともあるのだろう。
それは個々の人間なのだから、
意見の相違や考え方の違いなどは必ずある。
仲睦まじいからこそ、譲れない所もある。
だから、そんな言われ方をするのだろう。
だが────…………
喧嘩している本人同士からすれば、
すれ違う事は死活問題に等しい。
自分に悪いところがあったのか、
どうしたら元に戻れるのか。
悩みに悩んで、何も手につかない程。
正直、私もそうでありました。
ねえ、美依様?
きっかけは些細なことでしたね。
だけれど……すごく拗れましたね?
今となっては笑い話ですが、
その時は自分が愚かだったことにも
気づけなかったのです。
雨降って、地固まる。
そんな言葉がぴったりの───………
私と美依様が恋仲になって、
初めて喧嘩した…恥ずかしい思い出話です。
***
「美依様、文を預かってきました」
ある暖かな春の日のこと。
私は美依様宛の文を持って、針子仕事に勤しむ美依様を訪ねた。
城の針子部屋は、今日も忙しそうだ。
そんな中訪ねてみれば、美依様は私が待つ廊下まで出てきてくれて、いつも通りの可愛らしい笑みを浮かべた。
「ありがとう、三成君」
「いいえ、お易い御用ですよ」
「誰からかな……あっ」
すると、手紙を受け取った美依様は宛名を見た瞬間、目を見開く。
何となくそれを盗み見てみれば『美依様へ』と達筆で書かれていた。
見た事のない字だし、それだけでは男からか女からかも判別は出来ないのだけれど……
美依様にはその主が解っているようで。
少し表情を曇らせた後、すぐに懐に仕舞った。
「……誰からの文ですか?」
「あ…ええと、知り合いからだよ。うん、ただの知り合い」
「そう、ですか」
("ただの知り合い"からにしては反応が)
何となく返事を濁されたような感覚がする。
一瞬、顔が暗くなったのも気になるし……
あまり良くない相手からだったのだろうか。
しかも…私に言えないような。