第21章 一世の契り * 帰蝶
だが────…………
何の因果なのか、歯車が噛み合ったのか。
運命など、信じたことは無かったのに。
────お前は何故、今ここに居る?
「んー、帰蝶…さん……?」
「起きたのか、美依」
柔らかなベッドの上で、目覚めた美依が寝惚けた声を上げる。
朝日が差し込み、既に陽は昇っていて。
美依の細い体の輪郭が、光の下に晒されていた。
俺は読んでいた書簡をベッドの横にある棚に戻し、目覚めた愛しい女を昨夜のように抱き締める。
さすれば、美依は頬を緩めて、俺の背中に腕を回してきた。
「ふふっ、あったかい」
「お前の方が温かいがな」
「お互い様ってことですねっ」
「……あの日の事を、夢に見ていた」
「あの日……?」
「商館に来たお前を無理やり手篭めにした、あの雨の日の事だ」
俺が言えば、美依は瞳を揺らし俺を見つめてくる。
だが、それも一瞬のことで。
すぐに温かな笑みになって、俺に笑いかけた。
「はい、いい思い出ですね!」
「美依……」
「私と貴方は離れられなかった。傷ついても…分かり合えた。きっとそれだけです、だから今一緒に居られるんでしょう?」
「……ああ、きっとそうだろう」
(お前は……とても強く美しい女だ)
時は流れ、幾度となく戦は起き。
何故かお前は、今俺と一緒にいる。
共に異国で過ごすお前、俺達は恋仲となり……
俺はまた、お前の体に華を咲かせる事ができた。
そう出来た悦びは、異常なほど気持ちを高揚させる。
俺はもうお前を離せなくなった。
こうして毎夜抱いてしまうほど……
お前しか見えなくなって、魅せられている。
それは他人から見たら盲愛とも言うのかもしれない。
それでも、触れ合えることを。
共に過ごし、温もりを分け合えることを……
いつかは離れてしまう日が来ても、今だけは大切にしていたい。
人の命は儚い。
だからこそ、その生は輝き煌めく。
一瞬で燃え尽きることがあっても、それは誰かの心に必ず遺る。
願わくば、お前の中に俺を遺せるように。
これがきっと……今世最後の愛だから。