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【イケメン戦国】新篇 燃ゆる華恋の乱☪︎華蝶月伝

第21章 一世の契り * 帰蝶




*****



(……これで、良かったのだ)



窓から商館の外を見てみれば、美依が傘を差して歩いていく姿が見えた。
割と歩く姿はしっかりとしている、誰かに送らせるかと思っていたが……
あの分なら一人で帰ることは出来るだろう。
堺にはまだ秀吉達が滞在しているはずだ。
そして、あの娘の性格から、俺に会った事は決して口にはしないだろう。

そう、あれば雨に消される戯れだったのだから。



「湿気た顔、してんなァ」



まるで嘲笑うような声が聞こえ、微かに振り返れば、元就が紅い目を可笑しそうに細めて部屋に入ってきた。
そのまま歩いて俺に近づいてきて。
窓の外に視線を移した元就は、ますます嘲笑しながら言った。



「へえ…あの啼き声はお姫さんだったか。部屋の外まで響いて、近寄り難かったからな」

「……白々しい。娘を商館に入れたのはお前だろう」

「真っ青な顔して単身で乗り込んできたから、どんな面白ぇことが起こるかと思ってな」

「……」

「だが、その憔悴した顔。喰われたのはどっちだ、帰蝶?」

「……下世話な詮索をするな」



(俺は、憔悴などしていない)

外套を翻し、俺はそのまま部屋を後にする。
もう美依の姿を見るのは止めた。
いくら後ろ姿を見送ろうが、それは無意味なこと。
あれだけめちゃくちゃに傷つけた、もう美依は俺を嫌いになっただろう。
それが、目的の契りだったのだから。
傷つけ嫌いにさせて、もう二度とこのような事がないように学ばせる。

そう、そこに感情などないのだから。

俺の想いは芽吹くも花は咲かない。
ただ蕾のまま、俺の心に残り続ける。
それでいい、花が咲こうものなら、それはすなわち……
美依を闇に落とす事に相違ないのだから。




​────そう、美依とは"何も無かった"




「……」

そっと指で唇に触れれば、あの柔い温もりを未だ思い出した。
だが、それはすぐに消えるだろう。
女に構う暇はない、やるべき使命があるから。
乱世を続けるため、命が尊ばれる世を作るため。
俺は止まれない、止まることなど出来はしない。

俺はあの温かさを振り切るように、手を握りしめた。
外に降り頻る雨が、また俺の中に響いて……
再び空っぽになった心に、深く染み込んだ。




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