第21章 一世の契り * 帰蝶
そう、『あの日』のように。
外は雨、もしかしたら雨音がこの時間も無いものとしてかき消してくれるかもしれない。
だったら────…………
「あっ………!」
これが最後であるから、
今世最後の、温もりを。
「帰蝶、さん……」
ソファに押し倒され、天井を向く美依が呆けたように俺の名前を呼んだ。
掴んだ細い手首は、折れそうなくらい脆い。
躰だって小さい、覆い被されば簡単に隠れてしまう。
そんな弱い娘が、俺を好きだと言うのか。
傷つく覚悟は出来ているのか、愚かだな。
「据え膳、だな」
「……用意されたお膳、ですか?」
「据え膳は比喩的な意味もある。つまり…」
「ぁ……っ」
指でその細い首筋を撫でると、美依は儚げに吐息を漏らした。
一気に濃くなる部屋の空気。
そんな中で俺は嘲笑うように言ってやる。
「男女が一緒にいる時、女が相手の男に対して身を任せてもよいと思っている状況の事だ。つまり…今のお前だ」
一瞬にして美依の瞳が見開かれる。
"この先"を想像したのか、瞬時に頬を朱に染めた。
この娘が色恋に慣れてないなど、見ていればすぐに解る。
だが、察しくらいつく所は大人の女と言う意味か。
美依は瞳を潤ませ、必死に見上げてきて。
それすらが煽情という事が解らないのは、やはり純すぎる故なのかもしれない。
「私は、そんなつもりじゃ……!」
「外は雨、お前は俺の事が好きで、俺はお前を抱ける。おあつらえ向きとはこの事だ」
「っ……」
「据え膳食わぬは男の恥、とも言うな。好きだと言い寄る相手を無下にも出来ないだろう?」
「やっ……」
先程指でなぞった肌を、今度は唇で辿る。
軽く吸い付きながら首を下に降り、襟元を開いて鎖骨の近くを強く啄んだ。
赤く咲いた華は白い肌によく映える、それを見るだけで腰にぞわりと痺れが走った。
こんな湧き立つ感情は久しぶりだ、戦で滾る時と同様に攻め込み支配したい欲に駆られる。
胸元を次第に乱しながら、着物の裾を割って、その太腿にも手を滑らせて。
吸い付くような肌の感触や、女特有の柔さも、己を滾らせ心に情欲の芯を植え付けた。