第21章 一世の契り * 帰蝶
(帰れと言った時に帰らないからだ。逃げ道を作ってやったのに……自らでそれを塞いだ)
己の愚かさを悔やめ。
えげつない淫欲は、抗いようもない。
男と女が一緒にいれば、必然的に起こること。
「あっ…ぁ…っ帰、蝶、さんっ……」
「逃がさない、そこまで俺は優しくはない」
「……っあ、やっ……!」
「随分いい声で啼く、これは愉しめそうだ」
嫌がれ、傷つけ、
俺を、嫌いになって、学べ。
自分の愚かさと、弱さを、
そして───………
二度と同じ過ちを繰り返すな。
頼む、美依。
「────逃げないで、くれ」
心の声が、口から零れた気がした。
多分、それは気のせいだろうが。
触れる肌は温かい、今宵は…よく眠れるかもしれない。
降りしきる雨に隠れるように、その嬌声を響かせ、火照った躰を重ね合わせていった。
一世の契りを。
最初で最後の交わる時間は、泡沫のように儚く何よりも尊い。
そんな永遠にも思える刹那を、心が切れそうなほど感じながら。
*****
『帰蝶さんの事が、好きです』
半月前の話。
堺でたまたま会った美依が言った言葉。
一瞬己の耳を疑った程、お前が放つには似合わない響きだった。
だが、それは真の言葉であると。
照れたように頬を赤くしたお前は、どこからどうみても恋する娘の顔。
それが、何よりも証明していた。
(────何故、俺を)
織田軍とは敵対する存在。
お前が俺を好きになる要素など、ひとつも有りはしない。
それなのに……お前は俺を好きだと言った。
正直、酷く内心を乱された。
有り得ないと思うのと同時に……
燃えるような熱情に支配されたからだ。
それに呑まれる事は無かったものの、酷く渇望を覚えた。
そして、俺は今日のような日を待っていたのかもしれない。
お前に攻め入る機会を、
俺の懐に飛び込んでくる瞬間を。
「あっ…ぁ………っ」
真っ白な背中が、口づける度に赤く染まる。
中途半端にはだけた襦袢が色っぽい、俺は美依を脱がせながら唇を這わせ……
その温かな肌に手で触れては堪能していた。