第21章 一世の契り * 帰蝶
「帰蝶さん、どうしてですか?」
「……」
「何故、秀吉さんを銃で撃ったんですか」
(……もう少しお前は聡いと思っていたが)
外は土砂降りの雨。
そんな中、突然商館に現れた美依は、俺に会うや否や開口一番にそう尋ねてきた。
直球に聞く以外、方法がないのか。
そもそも、この娘は誰が商館内に入れた?
色々頭の中で思考が巡る。
だが、この娘をさっさと帰すのが得策だろう。
あれこれ詮索されては、色々都合が悪い。
この娘は、織田の手の内のものだからだ。
俺はそう考え、美依が聞きたい理由を簡潔に話してやる事にした。
「秀吉の家臣が俺の周りを色々嗅ぎ回っていたからだ。家臣の責任は将が取るものだろう」
「だからって……!」
「それに撃ったと言っても脇腹を掠めただけで、致命傷になってはいない。脅せれば十分だったからな」
「でもっ…怪我させたのは事実です」
「理由は答えた、さっさと帰れ」
甘っちょろいにも程が程がある。
怪我くらい、戦に出れば誰でも追う。
武将なのだから、そのくらいは当たり前の事だ。
まあ、この娘は五百年後の平和な世で生まれた。
戦など無縁の生活をしてきたのだから、仕方は無いけれど。
だが、これ以上の説明は必要ない。
お前の"何故"には答えてやったのだから、もう留まる理由もないはずだ。
そう思っていると、美依は悲しそうに表情を曇らせ俯く。
そして、訳分からん話を持ち出した。
「私…帰蝶さんを知りたいと思っています」
「は……?」
「貴方は悪い人じゃないって信じたいから。敵だけど、悪人じゃないって」
「……」
「もっと分かり合えると思うんです。こんな、傷つけたり傷つけられたりしなくても。だから、貴方をもっと知って、色々理解したいんです」
(……お前は清い娘だ、だが愚かだ)
人間、分かり合える者とそうでない者がいる。
少なくとも、俺は俺の中から信長を切った。
五百年先の世を見て、乱世を終わらせるべきではないと……俺は成すべき事を悟った。
天下を治め、泰平の世を築こうとする信長と分かり合えるとは到底思えない。