第20章 君色恋模様《後編》* 真田幸村
────信玄様の女遊びが酷かった時。
知り合った女の一人が紗英だった。
信玄様の周りにいる女は、信玄様が遊びでしか相手をしていないと、そう割り切って付き合って居た中……
紗英だけは本気で信玄様を好きになり、全力でぶつかっては傷ついていた。
俺はそんな紗英の相談相手になっていたのだ。
だから、田舎に帰ると言った時も、信玄様を忘れていい男と巡り会えればいいなと思ったものだが…
『まだ忘れられないから』と言った紗英。
だから、尚のこと信玄様と話し合うべきなんだ。
「紗英、佐助と一緒にいるんで、あんたは紗英と話し合ってきてください。紗英は…まだ忘れられないって言ってた」
「……そうか」
「信玄様自身の行いが招いたことなんですからね、二人は城下の茶屋に居る。俺は美依の誤解を解いてやらないと」
「そうだな、そうしてやりなさい」
ふわりと笑んだ信玄様を置いて、俺はまた急いで部屋へと向かった。
信玄様の事は、信玄様自身が何とかするだろう。
あの人はいい加減な人ではないし、そういったいざこざだって多数経験しているから、うまく纏めるはずだ。
そこは俺は心配しなくていい。
俺の問題は……美依のことである。
(────居た)
俺が部屋へと行ってみると、美依が白無垢の隣で小さく丸まってうずくまっていた。
その小さな後ろ姿は『傷ついています』と言うのが丸わかりで……
やたらと痛々しく見え、俺も心がずきりと痛んだ。
きっと、ものすごく誤解してる。
俺と紗英の仲を疑ったのだろう。
それも、当然のように思えた。
例えば逆の立場になり、美依が見知らぬ男と会っていたと俺が知ったら……
多分俺は美依の事を問い詰めるだろうから。
「……美依」
俺は美依に近づき、小さく名前を呼んだ。
すると、美依は大袈裟なまでに肩を跳ねさせたが……こちらに振り返ることはしない。
俺だと解ってるんだろうが、顔を合わせたくないって所か。
小刻みに体が震えているのが解り、それがもう俺には堪らなかった。
俺は美依の後ろに座り込むと、その華奢な両肩を掴む。
そして有無も言わさず、その体を掻き抱いた。