第20章 君色恋模様《後編》* 真田幸村
『え、美依が……?』
『仲良い様子を見て傷ついたみたいだ』
『俺と紗英はそんなんじゃねーよ』
『でも"そんな風に"見えたんだと思う』
『っ……』
『幸、誤解解かなきゃ!早く行って』
『おー』
(迂闊だった…美依に見られていたなんて)
走って城に戻りながら、奥歯を噛み締める。
今美依がどんな思いでいるかと……
それを思えば、心が軋んで痛かった。
昔の知り合いと会い、茶屋に入って話をして。
俺にとってはなんて事ない、ただの懐かしい再会だったのだけれど……
それは、周りから見たらどう映るのか。
はっきり言って、そこまでは考えていなかった。
ましてや、今は大事な祝言前だ。
美依も色々心情的に不安定になっているのかもしれない。
こういった事に、過敏に反応してしまうのも頷けるのに、俺はなんて無神経な事をしてしまったのだろう。
「多分、部屋だよな……」
城に帰っているだろうという確信があり、俺は一目散に城に舞い戻った。
佐助と紗英を置いてきてしまったが、まあ佐助は上手くやるだろう。
紗英だって人見知りな性格ではない、だから二人にしても大して問題はないはずだ。
廊下を忙しなく走り、美依の部屋へと急ぐ。
途中で訝しげな顔をする女中や家臣とすれ違い、それも気に留めずにいると……
「幸村?怖い顔してどうしたんだ」
大きな体が俺の進行を止めた。
それに気がついて顔を上げてみれば、信玄様が眉を潜めて俺を見ている。
丁度いい所で会った、信玄様にも情報は共有せねばなるまい。
俺はそう思い、少し早口で信玄様に説明をする。
「信玄様、紗英が帰ってきてます」
「紗英が……?」
「はい、一緒にいる所を美依に見られて誤解された」
「あー…だから美依の様子が変だったのかー。さっきすれ違って声を掛けたのに、俺に気づかずに走って行ったからな。多分部屋に居るとは思うが」
(やっぱり、帰って来てた)
俺の説明で全てを察したように、信玄様は若干苦笑いを浮かべた。
どちらかと言えば、紗英は俺より信玄様と話した方がいい。
それは…過去に色々とあり、信玄様が種を撒いたようなものだからだ。