第19章 君色恋模様《前編》 * 真田幸村
(幸村も一緒に来れたら良かったのにな)
幸村も誘おうとしたら、どうやら出かけてしまっているらしく、朝から姿が見えなかった。
祝言間近だもの、幸村も色々忙しいのかもしれない。
誘えなかったのは寂しいけど……
しばらくは忙しいのが続くかもしれないから、佐助君と一時の息抜きを楽しもう。
そう心に決めて、何を食べようかなぁなんて考えていた時だった。
「あれ……?」
不意に佐助君が足を止めたので、私も一緒になって立ち止まった。
佐助君の顔を見上げれば、無表情ながらもどこか険しいようなそんな雰囲気を伺える。
「どうしたの?」
「……見てはいけないものを見たような」
「え?」
「あそこ」
佐助君が指差す方向に、私も視線を向けた。
すると、指差す先には見慣れた赤い着物の男の人と、見慣れない小柄な女の人の姿。
寄り添い、親しげに談笑しながら歩く姿は、とても仲睦まじい関係に見える。
私は目を見開くしかなく、思わず声を上げそうになるのを必死に堪えた。
(幸村……?!)
間違いなく、それは幸村だ。
今日、幸村は朝から姿が見えなかった。
てっきり公務だと思っていたけれど……
本当は違かったの?
あの女の人と逢瀬をするために出かけていったの?
私に内緒で……知らない女の人と?
え、これって浮気になるんだろうか。
なんで、誰なの、その人。
祝言前なのに……浮気現場発覚?!
頭の中がパニックになって、色んな方向に思考が行ってしまう。
幸村に、幸村に限って浮気とかそんなこと。
絶句して立ち竦んでしまっていると、佐助君が私の肩に優しく手を置いた。
「美依さん、大丈夫?」
「誰、あれっ…誰、あれっ」
「ごめん、俺にも解らない。少なくとも幸村と出会ってから一度も会ったことないと思う」
「でも、あんな仲良さげに…幸村、女の人苦手って……!」
「落ち着いて。深呼吸、スーハースーハー」
今度は背中をさすってくれる佐助君。
私はザワついた心を落ち着かせようと、なんとか深呼吸を繰り返した。
そんなことをしてる間に、幸村と女の人はその先にあるお茶屋さんに入っていく。
そこは、私と佐助君が入ろうとしていたお茶屋さんだ。