第19章 君色恋模様《前編》 * 真田幸村
「紗英……?」
「幸、久しぶりだねぇ!五年ぶりくらい?」
「お前、地元の村に帰ったんじゃ」
「最近またこっちに出てきたんだよー」
朗らかに笑って、その女は俺に近づく。
びっくりする俺を見て、ふふっと昔のように不敵に笑ってみせた。
紗英(さえ)。
それは昔の俺をよく知る知り合い…よりももっと縁深い女だ。
正確には俺と信玄様、かな。
昔は肩で髪を揃えていたのに、今は長くなって女っぽく結っている。
昔よりかなり大人びて落ち着いた雰囲気を醸し出す紗英、それでも笑顔は昔のままだ。
別れる時、紗英は故郷に帰ると言っていた。
こいつとは色々あって、多分もう会う事もないだろうと思っていたが……
まさかこんな風に偶然再開するなんて。
すると、紗英は不意に俺の腕を掴んだ。
相変わらずちっこい紗英は下から俺を見上げ、くるくるとした丸い目で俺を見上げてきた。
「また会えるなんて、すごい偶然!ねえ、昔みたいにお茶しようよ。せっかく会えたんだから、ねっ」
「まあ…少しだけならな」
「決まり〜!」
多少強引なところも相変わらず。
俺は商人に金を払い、紗英に引っ張られるようにしながらその場を後にした。
祝言が間近に迫っている今、こうして美依以外の女と茶をしようだなんて、それは宜しくない行動だったかもしれない。
俺と美依は喧嘩ばかりしている。
大概理由はどっちもどっちで、お互いに悪くないことが多いけれど……
『今回』ばかりは完全に俺に落ち度があった。
────そう、火種を作ったのは俺だ
俺が女心が解らないって言われるのは、発言だけではなく、こういう行動もあるからかもしれない。
その時の俺はただ、久しぶりに会った知り合いに、懐かしく思っていただけなのだから。
*****
「ありがとう、佐助君。付き合ってくれて」
「いや、君の頼みならお易い御用だ」
祝言を三日後に控えた、晴れた日のこと。
私は佐助君と一緒に、城下の市に来ていた。
しばらく祝言の準備でバタバタしていて、ゆっくりする時間もなかったから……
たまにはお茶屋さんで甘味でも食べたいなぁと思っていた所、佐助君が付き合ってくれることになったのだ。