第19章 君色恋模様《前編》 * 真田幸村
「なんの話?」
「ちょっとな」
「教えてくれないの?」
「別にやましい事じゃねーよ、心配すんな」
「……ふーん」
美依は若干納得がいってないように見えたが、それ以上は追求してこない。
出来れば祝言当日まで秘密にしておきたいから、追求されても絶対言えないのだけれど。
(でもお前ならきっと喜ぶ、だから秘密な)
今バラしたら喜びが半減してしまうから。
祝言で死ぬほど喜ばせるために、少しばかりの秘密を許してほしい。
俺は口元に笑みを浮かべながら、美依の頭をぽんと優しく撫でる。
そのまま髪を梳けば、細い髪の感触が心の柔らかい場所を刺激するような気がして……
少しだけ甘い感情が、俺の胸の中を支配したのだった。
*****
「幸村様、こちらになります」
「ありがとな、間に合ってほっとした」
次の日、早速商人の元に引き取りに行った俺は、小さな木箱を受け取り表情を緩めた。
そして、それをそっと開けて中身を確認する。
眩く輝く"それ"を見て……
祝言に必要なものがようやく全て揃ったと、また一つ安堵のため息を漏らした。
"これ"を用意しようと思ったのは、佐助の助言からだった。
あいつの居た世では、祝言には必然的に用意するもので。
もし準備出来たらきっと美依は泣いて喜ぶと…そう言われてしまえば意地でも準備するしかない。
俺自身、そんな未来の風習は当然ながら知るわけがないから、それを準備する為に手当り次第知り合いのツテを辿って。
そして、ある南蛮の商人に行き着き、ダメ元で相談したところ…運良くその物を準備出来ることになったのだ。
「祝言はいつでしたっけ」
「三日後だ」
「遅くなってしまって申し訳ありませんでした、でもきっと奥方様は喜ばれますね」
「っ…おー」
『奥方様』
その言い方に、思わず返事がどもってしまった。
正式に夫婦になる訳だし、奥方と言われればそうなのだが、その呼び名にやっぱりまだどこかむずむずする。
少しこそばゆい思いをしていると……
「あれっ、幸?」
後ろから声を掛けられたので、俺は首だけ振り返った。
その声を掛けたと思われる人物を見て、思わず目を見開く。
それは…いい意味でも悪い意味でも俺にとっては懐かしい女だったからだ。