第19章 君色恋模様《前編》 * 真田幸村
隣の部屋着いてみれば、目的のものが衣桁に掛けられており、それに使う装飾品の数々も衣桁の傍に置かれていた。
美依は部屋に着くなり、俺の手を振りほどいて衣桁へと駆け寄る。
そして、うっとりするような感嘆のため息を盛大に漏らした。
「わぁ…やっぱり白無垢は素敵だなぁ……!」
(すげー嬉しそうな声だな)
少しばかり苦笑しながら、俺も美依の傍に寄る。
そのまま顔を見下ろしてみれば、黒真珠の瞳をきらきらさせて届いたばかりの白無垢を見ていた。
反物屋で生地を見て、一から縫い上げてもらった、正真正銘この世でたった一つの白無垢。
納期に手違いがあり、もしかしたら間に合わないかと思われたが……
今日届くと言伝があり、美依は朝からそわそわして待っていたのだ。
桜と牡丹が銀糸で表現された白無垢は、華があって尚且つ品の良い印象がある。
本当に間に合って良かったなと俺自身も感慨深く思っていると……
後ろから俺と美依の名を呼ばれ、振り返るといつの間に来たのか、信玄様が襖の近くに立っていた。
「やっと届いたのか。美依、良かったなー」
「はいっ、間に合って良かったです!」
「君が嬉しそうで何よりだ。いい笑顔だから、思わず花嫁を搔っ攫いたくなるよ、幸」
「信玄様、冗談でもやめてください」
「うーん、半分冗談にしておくよ」
(半分は本気じゃねーか、ったくこのお方は)
信玄様は相変わらず飄々としていて、どこまでが冗談なのかたまに掴めない時がある。
でも俺達の仲を一番祝福してくれていると言っても過言ではない、だから本気で搔っ攫うなんて絶対にしないが。
だとしても、冗談でもあまり聞きたくないってのが本音だったり。
そんな事を考えていると、信玄様は何かを思い出したように手を叩いた。
「そうだ、幸。例の商人から言伝が来たぞ」
「え?」
「手元に届いたから、引き取りに来てほしいそうだ」
その言葉を聞き、俺は目を輝かせる。
納期が遅れていたのは、実は白無垢だけではない。
美依に内緒でこっそり商人に頼んでいたものも、仕上がりが遅くて内心ひやひやしていたのだ。
それも無事に間に合ったらしい、なら早速引き取りに行って…なんて考えていると。
美依が俺を見て、可愛らしく首を傾げた。