第18章 鴇色の華に魅せられて * 織田信長
いや、別に恋仲であるのだから、誘われたとてなんの問題もないのだが。
ただ、泥酔している女を抱くのは若干気が引ける。
それに酔った勢いにしても、こんな風に可愛らしく"誘い文句"が出るならば、本当に酔った姿を自覚させねばいずれ大事故になりそうだ。
……それを美依に自覚させるのは至難の技だろうが。
俺が『少し待て』と美依の制止を振り切り、立ち上がろうとすると、美依はそれに反して腕に力を入れてきた。
そして……
「……っ!」
後ろ頭を抱えられ、噛み付くように唇が重なる。
美依から口づけてくるなんてと驚いていれば、美依がさらに腕に力を掛けて体勢を変えたので、不意を突かれ俺の体は褥へと転がされてしまい……
背中が褥に付いてみると、美依は口づけたまま俺の体に乗り上げてきた。
まるで美依に押し倒されているような状態で、口づけが深くなる。
舌が絡み合い、美依の口内は酒の味がして、それだけでくらくらと酔わされそうになってしまい。
いきなりの攻めの姿勢に、俺は若干戸惑って、無意識に美依の頬に手を当て引き剥がしていた。
さすれば唇の間には、つーっと銀糸が伝い…
美依は俺を見下ろしながら、どこか妖艶に笑んだ。
「ふふっ、のぶなが様、可愛い〜〜」
「は……?」
「今焦ってるでしょう、顔が赤いですよぅ〜」
(……悪酔いしているな、タチが悪い)
男の体に跨り、こんな風に笑うとは。
酒の力が手伝って、気を大きくさせているか。
そして、少し焦ったのも見抜かれた。
美依に攻められるのは慣れていない故に、戸惑ったのは事実だ。
だが、美依はそれで止めることはせず、俺に覆いかぶさって体に手を這わせ始める。
胸元の着物の合わせからするりと細い手が忍び込んできて、俺の肌を直にやんわりと撫でた。
その淡い感触に、むずっと肌が疼いて……
「……っ美依」
思わずその名を呼ぶと、美依は顔を上げて、にたっといやらしく笑った。
そして、ほんのり濡れた桜色の唇から、いつもの美依からは想像も出来ない言葉が紡がれる。