第17章 太陽と月の恋人《後編》* 秀吉、光秀
(美依、お前は……)
そうやって、ずっと苦しんでいたのか?
この十四日間、俺達の間で気持ちが決まらない自分を責めていたのか?
秀吉はその涙を指で掬い、俯いた顔を覗き込む。
その苦しそうに歪んだ顔を見て、心がずきりと傷んだ。
「美依、それは違うぞ?正式に恋仲にもなってないのに、体まで求めた俺達のせいだ。お前は何も悪くない」
「だって…二人とも好きって駄目でしょう?二人に告白されて、期間限定の恋人になって…二人と接する内に、同じように気持ちが膨らんで好きになっていったの」
「美依……」
「だから求められた時、拒めなかった。どちらかを選んで、どちらかを失うのが怖かった。どちらも失いたくないって、いい加減でしょう?そんな事、許されるわけないのに……」
(……本当に、お前は)
どうしてそう、馬鹿みたいに素直なんだ。
どうやら、この十四日間は無駄ではなかったらしい。
"失いたくない"と思ってもらえた、それはきっと…美依の心に愛情が生まれたからだ。
光秀はそれを思い、美依の頭を優しく撫でる。
そして低く染み入るような声で美依に囁いた。
「二人とも好き、で…いいだろう」
「光、秀、さん……」
「少なくとも今はそれでいい。どちらを選んでもお前から離れる事はないし…それに、今はそれより重要な事がある」
「え……?」
「……傷ついたお前を、俺達で癒すことだ。異論はないな、秀吉?」
秀吉に問いかければ、秀吉は大きく頷く。
そして美依の手を取り、その甲に唇を押し当てた。
美依はその慈しむような行動に目を瞠る。
秀吉は甘い音を立てて肌を啄み、いつものような明るい笑顔を見せた。
「ならず者に触れられて、嫌だったろ?今からそれを全部忘れさせてやる、俺達で」
「っ……」
「秀吉…あくまでも"癒す"のが目的だ、暴走するなよ?」
「それはお前だ、光秀。反対に美依を傷つけたら承知しねえ」
いつものように揶揄うような口調の光秀。
それに真面目に答える秀吉。
それはいつも知ってる二人、優しく……好きになった二人だと。
美依はそれに安堵を覚え、また涙を零した。