第17章 太陽と月の恋人《後編》* 秀吉、光秀
「光、秀、さ……っ」
「……怖かったな。だが、ここにはお前の味方しか居ないから安心しろ」
「は、い……」
「秀吉、いつまでそうしている気だ?」
光秀が軽く皮肉っぽい口調で言うと、そこでようやく秀吉は固く抱き締めた腕を緩めた。
そして、ジト目で光秀を見ると……
少し納得のいかないような声色で物申す。
「うるさい、美依を安心させてやっていただけだ」
「それは解るが、俺も美依を抱き締めたいんだがな」
「お前にはやらせねぇ」
「やれやれ……美依、こちらへおいで」
すると光秀は胡座を掻き、美依の脇の下に手を入れると、問答無用で自分の膝に美依を移動させた。
背中からしっかりと抱き込み、肩に顎を乗せれば、取り残された秀吉がますます納得いかないように言う。
「おい、光秀……!」
「この方が美依が安心して話せるだろう?」
「……これまでの経緯か?」
「そうだ。……美依、俺と別れてから何があったか…俺達に話してごらん」
「っ……」
光秀の言葉を聞いた途端、瞬時に美依は身を固くした。
顔は俯き、唇を噛んで…また小さく震え出す。
美依は頭や手などに包帯が巻かれ、手当ては一通り済んでいるように見受けられるが…
女中達には、何をあんなに抵抗していたのか。
そのまま口ごもってしまった美依、秀吉は美依の両手を握ってやると、顔を覗き込んで優しく笑む。
そして美依に向かって、柔らかな声で言葉を紡いだ。
「話せるだけでいい。美依…出来るか?」
「秀吉さん……」
「上手く話そうとしなくていいから、聞かせてくれ。俺達は…お前を癒してやりたいんだ」
秀吉の言葉に、美依は瞳を潤ませ……
そして、握られている両手に視線を落とした。
温かい手、この温もりを私は覚えてる。
背中から包み込む優しさも、匂いも、全部知っている。
────もう、安心していいんだ。
美依は一呼吸置いてから、震える唇を開いた。
そのままゆっくりと話しだす。
時折声を詰まらせながらも美依が説明したのは、酷く痛ましい経緯だった。