第17章 太陽と月の恋人《後編》* 秀吉、光秀
「触らないで………!」
その悲痛な叫び声は、廊下にまで響いていた。
そのおかげで、美依がどの部屋で手当てを受けているかもすぐに解り……
走ってきた二人は声のする部屋の前まで来ると、襖を開ける前に中の様子を伺うように聞き耳を立てる。
「美依様、落ち着いてくださいませ…!」
「触らないで、嫌っ……!」
「美依様っ……!」
慌てるような女中達の声。
そして…全てを拒絶するような美依の声も。
二人は顔を見合わせ、互いに頷いて。
そのまま、勢いよく襖を開けた。
「美依……っ!」
瞬間、全ての視線が二人に向く。
部屋の中には三人の女中と、褥には美依。
美依は褥から上半身を起こした状態で、その周りを女中達が囲んでいた。
見れば、美依は顔を真っ赤にして、酷く興奮した様子で……
だが二人の姿を見た途端、見開かれた大きな瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「秀吉さん…光秀、さん……!」
「美依っ……!」
先に美依に駆け寄ったのは秀吉だ。
駆け寄って褥の横に膝をつき、有無も言わさず美依を抱き締める。
大きな体ですっぽり包むと、美依もその背中に細い腕を回してきて。
その華奢な体が小刻みに震えてるのが解り、秀吉はなだめるように背中を優しくさすってやった。
「大丈夫だ、もう。だから落ち着け」
「秀、吉、さ……っ」
「傍に居るから、安心しろ。……な?」
二人の様子に、女中達が戸惑ったように顔を見合わせる。
秀吉に続いて光秀も部屋の中に入ると、困惑している女中達に向かって静かな声で言った。
「後は俺達に任せて、下がれ」
「光秀様……」
「それから人払いをして、誰も部屋に入れさせないように皆に伝えろ。外にも控えていなくていい」
「か、かしこまりました…!」
三人の特別な空気を感じ取ったのか、女中達はそのまま部屋から出ていった。
光秀も二人に近づくと、美依の背中側に座り、その小さな頭を優しく撫でる。
さすれば、美依は少しだけ振り返り…その涙目を光秀に向けてきた。