第16章 太陽と月の恋人《前編》* 秀吉、光秀
二人で視線をそちらに向ければ、慌てた様子で駆けてくる人影。
無動作に伸びた灰色の髪に、紫色の着物と薄灰の袴。
それらが確認出来て……
その人物は秀吉と光秀に気がつくと、急いで立ち止まり鋭く目を細めた。
「秀吉様、光秀様、こちらにいらっしゃいましたか……!」
「三成、そんなに慌てて何かあったのか?」
「美依様が……!」
「美依が…どうかしたのか」
すると、三成は苦しそうに少し俯き、唇を噛む。
そして、そのまま言いにくそうに口から発せられたのは『まさか』と思うような衝撃の一言。
「美依様が、ならず者に強姦されました」
「────…………っ!!」
『秀吉さん』
まるで清い花のようなお前。
真っ白で純粋で、何にも染まってないお前を、俺達が散々汚した。
『光秀さん』
名前を呼ばれるだけで焦がれて……
お前は俺達の都合で振り回したのに、優しく笑ってくれたんだ。
────…………なのに、
ならず者に、強姦されただと?
「美依……!」
「政宗様に保護されまして、先程帰って来られました。今は別部屋で治療を受けておりますが…少し様子がおかしくて」
「様子がおかしい?」
「なんと言うか…酷く興奮していらっしゃって。私はお部屋に美依様の着替えを取りに…その、見るも無惨な格好になられていたので」
「っ……」
「あっ、秀吉様、光秀様……!」
二人はほぼ同時に駆け出していた。
走って美依の元へと急ぐ。
今すぐ美依に会わなければ、そして癒してやらなければ。
逢瀬後別れて、考えるために寄り道をして。
その時にならず者に目をつけられたのか?
美依は可愛いから、きっと惹き付ける何かがあったのだ。
それでも、強姦されるなんて……
美依は俺達が大事に愛でてきた、愛しい女なのに。
心にふつふつと湧き上がるのは怒りの炎。
互いに抱いていた嫉妬心なんか、比ではない。
そんなのよりもっと、灼熱の如く燃え上がり……
『────秀吉さん、光秀さん』
あの眩しい太陽みたいな笑顔が、恐怖に歪んだのかと思えば、身を刺すように痛かった。