第16章 太陽と月の恋人《前編》* 秀吉、光秀
(……めかし込むのは、光秀のためか)
光秀との逢瀬のために、そうやって綺麗に髪を結って。
昨夜は俺の腕の中で乱れていたのに……
今宵はもう、別の男に抱かれるのか。
心が焼かれるような感覚を覚える。
それは嫉妬の炎がめらめらと燃えているからだ。
美依が光秀を選んでしまったら、
もう二度と抱く事は許されない。
ここで、美依を手放してしまったら。
渡したくない、光秀に。
美依は俺のものだから。
俺だけが愛したい、美依を、
────今ここで引き止めなければ
「────…………!」
俺が駆け寄り、その小さな体を背中から抱き締めると、美依は驚いたように振り返った。
その機を逃さず、唇を奪う。
片手で顎を捕え、その唇を塞げば……
美依は目を見開き、若干抵抗するように腕の中で身動ぎした。
「んっ……!」
「……っ美依……んっ……」
「んんっ…んぅ………っ!」
一瞬離して名を呼び、また柔い所に噛み付く。
まるで獣が小動物を食らうように、何度も何度も。
その甘い感触を味わっては、舌を絡めて吐息まで奪った。
次第に美依の瞳が潤み、赤くなってきたところで俺は力を掛けてその体を押し倒す。
畳に体が付いた美依は、上から覆い被さる俺を見つめ……
熱を孕んだ獰猛な瞳を見て、思わず息を飲んだ。
「行かないでくれ」
「秀吉、さ……」
「頼む……俺の傍に居てくれ」
「で、でも……!」
「────愛してるんだ」
「お前を光秀に渡したくない。お前が光秀に抱かれてるって思うだけで、気が狂いそうだ。お前がここに残ると言えば、こんな奇妙な関係は終わる。頼む、美依……俺を選んでくれないか」
昔はそこそこに楽しい恋愛もこなした。
いつだったか光秀に言われたことがある。
『尽くしたいと申し出る女はいくらでもいるだろうに…何故美依を選んだ?』
それは、馬鹿みたいに愛してしまったからだ。
あいつの全てが欲しいと……
そう思って、止まらなかったからだ。
────光秀、お前はどうなんだ。
女なんて、はなから眼中に無かったくせに
何故……美依を選んだ?
*****