第16章 太陽と月の恋人《前編》* 秀吉、光秀
お互いが美依を抱いていると悟ってから……
秀吉も光秀も部屋の外から、互いの閨事を見守るのが日課になっていた。
だが、障子を挟んで聞こえてくる美依の艶やかな啼き声は、酷く自分を醜くさせる。
────啼かせているのは、俺じゃない
美依は自分のものだと言う独占欲。
他の男に体を許すなど、本当なら絶対にさせたくない。
それが三人で約束した決まり事だと解っていても、それでも心にはどす黒い嫉妬の感情が生まれて……
結果、相手の閨は知るものではないと。
お互いが後悔を覚えている現状がある。
だが……この関係もすでに十二日。
明日の秀吉、明後日の光秀の日でもう終わりだ。
その後はもう……どちらが美依の心をより掴んだかに掛かっているのだが。
「さて…俺は部屋に戻るとしよう。美依が起きて、俺の姿がないと寂しがるかもしれないからな」
光秀はゆっくり立ち上がると、軽く襟元を正して秀吉を見下ろした。
光秀の瞳は翳っているものの、眼差しは優しい。
恐らく…美依の事を考えているのだろう。
それを思い、秀吉も静かに立ち上がる。
そのまま光秀を真っ直ぐに見て、まるで"牽制"するような言葉を紡いだ。
「……あまり無理させるなよ?まだ俺の日が一日残ってる、まだ美依はお前のものじゃない」
「それはこちらの台詞だ、秀吉。最終日は美依と逢瀬の約束がある、動けなくなるまで抱き潰したら…解っているだろうな」
「そこまで俺は自分勝手じゃねえ。状況はわきまえてるつもりだからな」
お互いの視線がぶつかれば、それは火花が目に見えて散るようだった。
秀吉はそのまま光秀に背を向ける。
これ以上部屋の前に居ても、自分が嫉妬心に駆られて惨めになると解っているからだ。
どうせ、光秀はこの後も美依を抱く。
もう……美依が啼かされる声は聞きたくない。
擦り切れるような感情を抱え、秀吉は早足にその場を去った。
光秀はそれを静かに見送りながら、目を細める。
まるで、昨夜の俺と同じだと。
それを思えば───………
自分自身に呆れてしまい、光秀はまた切ない笑みを浮かべたのだった。
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