第16章 太陽と月の恋人《前編》* 秀吉、光秀
だが、傍で笑う美依が可愛くて。
可愛くて仕方なくて、今はまだ駄目だと分かっていながら止められなかった。
そして、性格だけでなく体も素直だと知ってしまえば、余計にそれは歯止めが効かなくなり……
"自分の恋人"である日の夜は、自分を覚え込ませるように、美依を抱いた。
それは、秀吉も光秀も同じ。
似た者同士の二人は、思考回路まで似ているのかもしれない。
────十二日前の夜
秀吉は然り、光秀も美依に好きだと告白し、美依がどちらも選ばなかった事が発端だった。
『私は秀吉さんも光秀さんも大切だから…どちらかを特別になんて出来ない。ごめんなさい』
多分美依の中に恋愛感情はないのだろう。
『大切』と言うのは、織田軍の一員として、世話になってる身として…という意味合いだと理解した。
それでも諦めきれなかった故に、二人で話し合い美依に提案した。
『なら、月が満月になる日まで、日替わりでお前の恋人になりたい。十四日ある内、七日間は秀吉、七日間は光秀。その間によく俺達を見定め、十五日目の満月の夜に答えを聞かせてくれ。勿論、どちらも選ばないという選択もありだ。俺達にお前の"特別"になる機会をくれないか』
その提案に、美依は了承してくれた。
次の日から始まった『恋人のお試し期間』。
時に秀吉の、時に光秀の恋人として、精一杯恋仲として接してくれた美依。
恋人なら体も繋げて当然なのだか、さすがにそこまで強いるのは良心が痛む。
そう思っていたのに───………
組み敷いても、美依は抵抗しなかった。
「拒まない美依に、俺達が甘えているのは確かだろう。俺とて最初は抵抗があった、お前を思って…と言うより美依にそこまでさせるのは、流石にな」
「でも、我慢出来なかったんだろ?」
「……そうだな、堪えが効かなかった」
「今になって思う……馬鹿な事、始めちまったなって。俺以外の男に乱れる美依なんて、出来れば知りたくなかった」
「それはお互い様だろう。俺とて、お前に啼される小娘の姿など…正直御免だ」
秀吉が渋い顔で大きく溜息をつく半面で、光秀はどこか他人事のように不敵な笑みを浮かべるだけだ。
だが、瞳は酷く翳ったまま。